経済・社会

2022.10.14 12:30

アルファ・ツイッタラー発「タワマン文学」が数万いいねを集める理由


──以前、作家の新庄耕さんとの対談で『自分のなかの苦しい部分をセラピーで解決するために文字化してる』と仰っていましたが、麻布競馬場さんの著作を読んだ読者が自ら「セラピー」に取り組んでいる可能性はあるでしょうか?

その面もあると思います。

私はこの現象は「新聞の読者投稿欄」に似ているなと思います。新聞の読者投稿欄は、知り合いに言うには恥ずかしい言葉を匿名で、それもたくさんの人に吐き出すという倒錯性のある場だと思っています。しかし、まず自分の気持ちを言葉にすることは誰にでもできることではありませんし、ハガキにしたためて送ったとしてもセレクションがありますから簡単に載るわけでもありません。

しかしアマゾンカスタマーレビューは誰にでも開かれた場です。これまで見て見ぬフリをしていた言葉を、言葉にしようとしても言葉にできなかった気持ちを、「ツイッター文学」という形式を借りることで形にし、全世界に発信することができます。

私自身にとって、いわゆる「ツイッター文学」を書くことは元来理解できないはずの他者を見つめ、想像し、少しでも深く理解するためのセラピーに似た試みです。少しでも多くの人が自分を見つめ、その先に他人を見つめ、そうすることで人の苦しみを想像したり、優しくできたりするようになったら嬉しいなと、そんな立派なことをぼんやり考えたりもしています。

SNSが「発信のハードル」を下げた


タワマン文学の面白さは、大袈裟な皮肉によるブラックユーモアだけではない。そこで描かれている、自分とは住む世界の違う登場人物が抱くルサンチマンに何故かしら共感してしまうからこそ面白く、また衝撃を受けるのだ。もしかしたら、自分の中にある感情に気付き、吐き出したくなってしまうのかもしれない。

一から言葉にするのは難しくても、麻布競馬場氏が言うように、ツイッター文学という形式やSNSという場を借りれば発信のハードルはいくらか下がる。

誰もが持っている鬱屈は今後もタワマン文学、もしくはまったく異なる表現形式で続々と発表されていくだろう。



松尾優人◎2012年より金融企業勤務。現在はライターとして、書評などを中心に執筆している。

文=松尾優人 編集=石井節子

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