麻布競馬場氏にインタビュー。「新聞の読者投稿欄」の倒錯性も?
このような疑問に対して幸運にも、著者である麻布競馬場氏ご本人に意見をうかがうことができた。氏は先の記事、『カスタマーレビュー欄で輝く文才?〜』を読んでくださっており、筆者の質問にも丁寧に答えていただけた。
以下にその内容を記載する。
──ご自身の著書のカスタマーレビューに「文学」が溢れていることの、率直なご感想を聞かせていただけますか。
ツイッターでは以前からツリー形式の小説がいくつかの文章力の高いアカウントによって書かれていましたが、それがアマゾンカスタマーレビューという場で、それもこれだけたくさんの人が書くようになるとは予想しておらず、驚きました。
──カスタマーレビューに「文学」が溢れるのは、著作、もしくはタワマン文学というジャンルにそのような魔力があるからでしょうか。
このたび出版された20の短篇もそうですが、私が書くものは「何てことのない日常の中にドラマを発見する」「そうして発見したドラマを限られた字数の中で、簡素な描写で、平易な文体で書く」というのが多いので、本来的に「誰にでも書けるフォーマット」なのだと思います。
そして、フォーマットがあったとしても何を書くか思い付かない、という人のために「早慶卒」「外資系」「港区」「タワマン」のような、良くも悪くもキャッチーな要素が補助線になったのだとも思います。それらは、たとえば港区の中流以上の人にとっては暮らしの中に当たり前に存在するものであり、またそうでない人たちにとってもSNSを通じて「見せつけられる」ものでもあり、それはつまり「誰にでも刺さる要素」なのだと思います。
誰でも書けるフォーマットと誰にでも刺さる要素、その二つの交錯点が「アマゾンカスタマーレビュー文学」だったのではないでしょうか。