ビジネス

2022.10.12

偏見を打ち破り下着市場を変革した女性起業家がKnixの事業を記録的価格で売却

Knix創業者ジョアンナ・グリフィス(Getty Images)

システミックバイアス(Systemic bias、社会構造がもたらす「偏見」)は、個人と社会の双方に悪影響を及ぼす深刻な問題だ。システミックバイアスは、教育や法制度などのシステム全体が、特定の集団に不当に利益を与えたり、不利になったりするような形でデザインされている場合に生じる。これは無意識のうちに行われることが多いのだが、個人の生活に大きな影響を与えることが多い。

Knix(ニックス)の創業者で社長のジョアンナ・グリフィスも、(生理、母乳などの)漏れ防止下着というすばらしいビジネスアイデアを持っていたが、投資家候補者にそれを売り込みに行ったところ「マーケットがニッチ過ぎる」といわれたという。

グリフィスは彼女のアイデアがニッチすぎるという指摘を拒み、事業の計画やビジョンを変えることに抵抗した。そして彼女は「華美な装飾に走り、機能が十分でなかった下着市場を変革することを目標」にKnixを立ち上げたのだ。こうして「Leakproof Underwear」(漏れ防止下着)の開発で先駆者となった彼女は、人々が求めるものに耳を傾け、画期的な解決策を実現することに力を注ぎ続けている。

このたびグリフィスは事業の80%を3億2000万ドル(約463億9000万円)という記録的な価格で売却した。今回の取引で、スウェーデンのパーソナルケア製品の製造販売会社Essity(エシティ)が80%の株式を取得し、Knixの企業価値は4億ドル(約579億8000万円)となった。これは一般に知られている限り、カナダの女性創業者による非公開D2C(消費者直販)ブランドの販売額としては、過去最大規模のものであり、米国歴史の中でも同様に女性創業者によるブランドとしては過去最大規模だ。

グリフィスはKnixの売却を積極的に考えていたわけではなかったが、Essityは同様の価値観を持つ戦略的パートナーであり、彼女は彼らが行っていることに興奮を覚えたという。グリフィスが20%の経営権を保持することは重要だ。彼女の肩書きは社長に移行し、その役割を継続することになっている。
--{事業売却の心構え}--

事業の一部または全部の売却を考えている人へのグリフィスのアドバイス


1.きわめて個人的な決断です
心血を注いで築き上げたビジネスを、売却するという決断はとても難しいものです。重要なのは、それがきわめて個人的な決断であることを忘れないこと。そこには正解も不正解もなく、1つの要素で取引が決まるわけでもありません。一番大切なのは、自分が何を求めているのか、何を必要としているのかを正直に見つめることです。完全に手放す覚悟はまだないのであれば、株の一部売却や、信頼できる従業員への事業継承などの選択肢を検討しましょう。何を決めるにしても、自分が納得できる決断をすることです。

2.購入者が自分の基準を満たすことが重要です
事業の売却を検討する場合、自分にとって何が重要なのか、買い手に求めたい基準は何かを認識することが大切です。事業の種類、会社の規模、個人の目標と目的、購入者の財務的安定性など、考慮すべきいくつかの要素があります。また、売却が従業員、顧客、サプライヤーに与える可能性のある影響も考慮することが不可欠です。時間をかけて自身の目標や目的を理解することで、自身の基準を満たし、関係者全員がスムーズに移行できる買い手を見つけられる可能性を高めることができます。

3.数字と事業評価を知りましょう
事業の売却を検討する場合、事業に関わる数字を明確に把握することが不可欠です。これによって、自分の事業の公正な価値を確保することができるのです。現在の市場環境、ビジネスの規模や範囲、財務履歴など、さまざまな要因がビジネスの価値に影響を与えることを念頭に置きましょう。自分ではビジネスの価値がはっきりわからない場合は、プロの鑑定人に相談することをお勧めします。自分の事業の価値が理解できたら、売却して最も高い対価を得るための最良の方法を考え始めることができます。

残念なことだが、システミックバイアスは、私たちが当然と思っている構造の中にしばしば定着しているために、克服することはなかなか難しい。たとえば、グリフィスは何度も「製品をニッチな方向へ持っていかないように」と言われ続けてきた。しかし、彼女は粘り続け、9年後に歴史的な取引で事業を売却した。

システミック・バイアスを克服するためには、それが日常生活にどのように現れているかを知らなければならない。差別の実体がわかれば、それに挑戦することができる。

forbes.com 原文

翻訳=酒匂寛

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