経済・社会

2022.10.07 14:30

米国の「求人110万件減」はなぜ経済にとって朗報なのか?

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米国の求人労働異動調査(JOLTS)によると、求人が110万件以上減少している。通常であれば、これは米国人にとって悩みの種になるはずだ。しかし、この高インフレの時期に、失業率の上昇は連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長にとってすべてが計画通りに進んでいることを意味する。

最新のJOLTS報告書は、求人数が1010万に急減したと指摘している。求人数の減少はまた、失業率が7月の3.5%から3.7%へと上昇したことにつながった。

ウォール街はこの求人減のニュースを歓迎した。それにともなう株価の上昇は、FRBが目標を達成しつつあり、インフレ抑制を目的とした利上げやその他の措置を間もなく緩和する可能性があることを投資家に示すものだ。

支出の減少、労働者数の減少


インフレの暴走は経済にとって忌み嫌われるものとされている。商品やサービスの価格が高騰し、富と家庭の生活の質を低下させるからだ。インフレを抑制するためのパウエル議長の策は景気を押し下げることだ。その方法の1つが金利の引き上げであり、もう1つはこれまでの景気刺激策をすべて撤廃し、緊縮措置に置き換えるというものだ。

FRBのもう1つの策は雇用の喪失を作り出すこと。その根拠はというと、職を失うと消費が減り、ひいては経済が縮小するからだ。

給与と賃金のスパイラル


米国では雇用市場が逼迫しており、企業は労働者を強く求めている。 需要が大きいため、労働者を確保しようと企業間で競争が生まれ、賃金が上昇する。この賃金上昇スパイラルはインフレを促進するが、これはFRBの政策と相容れない。JOLTSのデータは、企業が雇用にブレーキをかけ始め、予測がつかない時期にコスト削減のために解雇を検討するかもしれないことを示唆している。

雇用市場の誤り


米労働省は有効求人倍率1.7と報告しているが、これは数カ月前から低下している。この指標は誤解を招くものだ。多くの求人があるからといって、その仕事がすべての失業者のスキルや経歴にマッチするとは限らないからだ。

これらの仕事の多くは求職者にとって魅力がないために空いている。小売、食品産業、倉庫、フルフィルメントセンターなど、最前線の現場に立つ職種だ。特にインフレが人々の収入を圧迫している現状では、これらの仕事の給与はいいものではない。労働者は将来の成長が期待できる、より質の高い仕事を見つけるために我慢している。

このデータは、労働省の家計調査で示されている、複数の仕事を掛け持ちして家計をなんとかやりくりしている人が増えている事実を無視している。複数の仕事を1つの仕事としてカウントしているのか、それとも多くの仕事としてカウントしているのかは疑問であり、それによって実際の数字が歪められている可能性がある。明らかにフルタイムの正社員の仕事が減り、パートタイムの仕事が増えている。

意図しない結果


FRBが意図しない結果を生むかもしれないという懸念がある。量的引き締めは景気後退、あるいはそれよりも悪い事態を引き起こしかねない。すでに投資銀行のクレディ・スイスやドイツ銀行が経営難に陥っているという噂があるように、FRBの政策は破たんを引き起こす可能性がある。世界の成長はすでに鈍化している。

9月の雇用統計


米労働統計局は7日に9月の雇用統計を発表する。そこから米国の雇用市場と経済の健全性について、より明確な知見を得ることができる。

forbes.com 原文

翻訳=溝口慈子

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