ビジネス

2022.10.06 15:45

セールスフォースに見る「カスタマーサクセス」の神髄

セールスフォース


併せて、セールスフォースが創業間もないころから注力してきたのが、同社製品を導入した顧客企業における利活用の支援策だ。
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同社には「カスタマーサクセス」の名前を冠した組織が早くからある。顧客企業の製品利用状況を分析しつつ、業務で成果を上げられるように製品の定着化や業務改善を支援する。フィットネスジムで専属トレーナーが付く感覚だ。クラウド型は、最小限の初期投資で利用を開始できる。

そこで例えば、顧客企業の一部組織にまずは導入してもらう。カスタマーサクセスの活動を通じて、先行的に導入した社員が成果を出せるよう利活用を支援する。成果が出始めて「この製品は使える」との評判がつけば、利用者数の増大、契約内容の拡張が見込める。顧客企業の売り上げが伸び、成長すれば、さらなる利用拡大が期待できる。

提案時から顧客と共に理想像を探る


セールスフォースでは最前線で顧客に対応する営業担当者をバックアップする体制を敷いている。マーケティングによる見込み顧客の開拓、AIを含むITの活用による社員の生産性向上、データに基づいた営業戦略の立案、営業戦略に裏付けされた社員の教育訓練や採用活動などだ。
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このような営業サポートの重要性は、国内企業にはまだあまり知られていない。マッキンゼー・アンド・カンパニーのリポート「日本の営業生産性はなぜ低いのか」によれば、営業員の半数が営業サポート専任となっている場合、営業員1人当たりが稼ぐ粗利額が最大化する。これは、営業員が顧客に関するすべてをエンド・トゥ・エンドで行うべき、という考えでなく、営業サポートを前線営業と異なる専門的なスキルを備えた集団と捉え直すことで、顧客の最前線にいる営業員がより力を発揮できることを意味する。

セールスフォース内において興味深い営業サポート部隊がある。大規模案件支援プログラム(図参照)のなかにある「イグナイトチーム」だ。イグナイトは「点火」を意味し、同チームはデザイン思考のフレームワークを使って、顧客企業の変革を支援する。

営業担当者による顧客企業への提案活動が進むなか、イグナイトチームは顧客企業の業務改革チームと共に、ワークショップなどを交えて業務改革後の成功イメージを策定する。この成功イメージを通じて、顧客企業におけるセールスフォース製品の採用決定を促し、さらには採用後のスムーズな改革推進を促す。

顧客企業の業務改革チームと協力しながら、同社製品で実現しうる理想的な働き方のイメージ動画を制作することもある。「イメージ動画は顧客企業のなかで改革後の統一的なビジョンを形成するのに役に立つ」(田崎)。製品採用の前から顧客企業で統一的なビジョンが形成されていれば、採用の先にあるカスタマーサクセスも狙いやすい。

田崎は「お客様が自社の課題や可能性のすべてを理解しているとは限らない」と指摘する。一方、「売る側の営業組織は数多くのお客様を知っており、ベストプラクティスも知る立場」(田崎)である。つまりは、顧客企業が自覚していない、まだ見ぬビジョンを描ける立ち位置にある。営業組織がもちうる力を発揮すれば、顧客企業がビジョンを描くサポートをしつつ、成功する道へといざなえるはずだ。


田崎純一郎◎セールスフォース・ジャパン セールスイネーブルメント シニアディレクター。2004年入社よりクラウドビジネスの啓蒙と拡販に尽力。営業、アライアンス、製品マーケティングを経て、現在は営業人材開発を担当。

マーク・ベニオフ◎セールスフォース共同創業者、会長兼共同CEO。ビジネスと社会貢献を両立させる「1─1─1」モデルを掲げ、株式、製品、従業員の就業時間の1%を使って世界中のコミュニティを支援。著書に『トレイルブレイザー』がある。

文=高下義弘 編集=神吉弘邦

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