ビジョンセールスの時代へ
「これからの営業は、ビジョンを売ることが大事」とセールスフォース・ジャパンの田崎純一郎は語る。どういうことか。わかりやすい一例として挙げたのが、同社によるビジョンデモだ。同社が掲げるコアバリューの1つである。
例えば、セールスフォースが21年7月に買収したスラックの導入事例。スラックを起点にして社員の働き方がどのように変わるか、特に社内外のコラボレーション、AIやアナリティクスといったテクノロジーを活用した生産性向上の観点で紹介する内容だった。
専門チームが発足してセールスが分業化すると、相手にコンタクトしづらい、仕組みが分離してパイプラインが滞りがち、という事態も起こる。スラックをベースに協働を進めることにより、業務をスムーズに遂行できるという。
データを見ながら商談化率を高めるための施策を探る。必要な情報資源や社内外のキーパーソンとつながりつつ提案書を作成する。他部門と連携し、既存顧客への適切なフォローによりさらなる成果の向上を支援する──。
こうしたデモで紹介される「Digital HQ(会社を動かすデジタル中枢)」モデルは、同社が顧客に提唱するビジョンである。そこでは、場所や時間に捉われない柔軟な働き方、サイロ化したコミュニケーションの解消を提案している。
セールスフォースの営業組織を支える「営業戦略部門」と「営業支援部門」
「売れる組織づくり」のためには、営業担当をサポートする体制構築が欠かせない。セールスフォース自身も、さまざまな専門チームが営業部門を支援している(セールスフォース・ジャパンの資料より作成)。
クラウドとカスタマーサクセスは好相性
セールスフォースの創業は1999年。当時は黎明期の技術だったクラウドコンピューティングを製品の基盤に取り入れ、それを磨き上げることで利便性の向上に成功した。CRMソフト市場で世界シェアトップを獲得した裏には、同社の創業メンバー、マーク・ベニオフ会長兼CEO(最高経営責任者)らの卓見があったと評価してよいだろう。
クラウド技術を採用した背景には、ベニオフらが創業以来掲げてきた「テクノロジーの民主化」という思想がある。これは、誰もが先端ソフトウエア技術の恩恵を受けられる世界というビジョンを示した言葉である。必要な機器すべてを自前で用意し管理する「オンプレミス型」から、クラウド製品を定期購読形式で利用する「サブスクリプション型」への移行を同社が促したことにより、資金が限られる中小企業も含めた、幅広い組織がデジタル技術の恩恵を受け取りやすくなった。同社製品の利用者にはNPO(非営利活動法人)などもいる。
クラウド型は、カスタマーサクセスとも相性がよい。田崎が「カスタマーサクセスを実現する象徴的な取り組み」と語るのが、同社のソフト製品機能の大規模アップデートだ。現在セールスフォースの製品はこれを年に3回行う。このアップデートでは、全世界の顧客企業から寄せられた改善要望を順次反映させている。利用者は、うまく利用しているほかの顧客企業の声、言い換えればベストプラクティスや成功のヒントをアップデート機能として間接的に受け取れる格好だ。
アップデートには新技術も盛り込まれる。過去にはモバイル機器への対応やAIによる業務支援機能が追加され、顧客企業が早期に新技術のメリットを享受できるようにしてきた。