まず、宇宙飛行士たちはISSでどんな生活を送っているのだろうか。1日の流れを見てみよう。
たった90分間で地球を一周してしまうISSだが、1日は地上と同じ24時間サイクル。室内は温度、湿度ともに快適な環境に制御されており、寝室やトイレ、運動のスペースなどが備えられている。朝は6時に起き、朝食をとり、8時から作業開始。昼ごはんと体力トレーニングの時間も確保され、午後の作業に移る。平日の業務時間は6.5時間で、土曜日は掃除と上限1時間の業務を行い、日曜日は休日だ。
だが、すべて閉鎖隔離された環境下であり、約半年間のミッションともなれば、単調な生活が続き、空気や水、生活用品なども限られる。衣服についてはどうだろうか。
JAXAは座談会を開き、宇宙飛行士の山崎直子や油井亀美也らが「宇宙での生活課題」について語り合った。そこで、ISS滞在中は基本的にずっと同じものを着ており、臭いが気になり、清潔感や爽快感を感じられないという声や、常時22〜23度程度なので夜は寒さを感じたという声などが挙がった。
また、宇宙からの記者会見や宇宙授業の中継もあり、汚れのないように長持ちし、かつ見た目も良い服装が理想であることがわかった。
詳しくは、JAXAが宇宙生活での課題や困りごとをまとめた「Space Life Story Book」を見てみると面白いだろう。
意外だった、プリミティブな声
「宇宙船内服」づくりは、当初は困りごとを解決するためテクノロジー路線とプリミティブ(原始的、根源的)路線の2パターンが並走していた。だが、宇宙飛行士たちからのヒアリングでわかったのは、「地上で快適であれば、宇宙でも快適」ということ。
シタテルのCEO河野秀和は「ヒアリング前は、機能的でデザイン性のある衣服に興味があるという読みがありました。ですが、『地球を感じたい』『家族愛を感じたい』といったプリミティブな意見が意外と多かった。テクノロジー路線の斬新な衣服よりも、消臭機能を高め、リッチさを追求した衣服の方が求められていると感じました」と振り返る。
それでは、一般の服づくりとはどのような点が違ったのだろうか。
シタテルの河野は「宇宙飛行士の方々が求める人間らしさや尊厳などをどのように整理し、デザインなどに落とし込んでいくか。宇宙生活のインサイトを読み解くことはなかなか難易度が高かった」と明かす。安全性や搭載性などJAXAによる厳正な審査を経て、宇宙飛行士たちのフィードバックを受けながら、スノーピークと連携して宇宙船内服づくりを進めた。