今回は澤田氏が考える起業家の素養、事業経営のポイントなどについてDIMENSIONビジネスプロデューサーの伊藤紀行が聞いた。(全4話中2話)
第一話:ファミマ社長、ファストリ副社長を歴任 澤田貴司が語る、名経営者の共通点 #1
大ヒットの本質
──これまでファーストリテイリングやファミリーマートなど、巨大組織を経営されてきました。大きな組織を束ねる上で、人材育成やビジョン浸透について大切にされていることをお聞かせください。
組織というのは規模の大小変わらず、99.99%リーダー次第だと私は思っています。リーダーシップのあり方・方法論は人それぞれですが、共通して言えるのは組織として最も大切なことは「進むべきゴールが明確な事業計画を作り、全社員と共有し、全社で実行・モニタリングし、前進する」こと。これ以上大切なものはありません。
「事業計画」というのは組織にとっての羅針盤。この大きな方向性を示すのは経営者の一番重要な仕事です。ファミリーマートの社長時代も「たとえば今期はこの3本柱をやるぞ」という根幹の部分を示すことを私が策定していました。
次にその方針を踏まえて各部署が事業計画を作る。これを何度も各本部と経営とで議論し最終的な事業計画書に落とし込みます。さらに「この計画を全社員に」伝えること。伝え方は人や組織それぞれだと思いますが、あらゆる手段を使って全社員がこの計画を確認できるようにすることが極めて必要です。
そこから「全社員で」実行・モニタリングしていくこと。詳細の運営方法は各部署に任せたら良いと思いますが、経営者としては「全社員で」しっかりとできる仕組みが作れるかが重要だと思います。
──「全社に」「全社で」はシンプルに見えて、組織規模が大きくなるほど難易度が高くなりそうです。
例えば最近はさまざまなマーケティング手法をいろんな人が語っていますが、私はマーケティングの本質は昔から変わっていないように思っています。それは計画を作り、計画を全社に浸透させ、全社を挙げて実行し、成功したり失敗したりする。それを全社で反省し、修正し、次に繋げていく。このサイクルがマーケティング活動の本質だと思います。
これを実現する上で「お客様にとってのわかりやすさ」を私はすごく大切にしてきました。ある種、確信犯的に、その会社の「社員は良いと思っているけど、マーケットに残念ながら知られていない」商品をピックアップし、そこに全社の力を投下するということを繰り返してきたように思います。
例えばユニクロのフリース。
ご存知の通り爆発的に売れた商品となりましたが、正直あの結果は野球でいうとたまたまバッターボックスでバットを振ったら大ホームランになったものでした。私の思いつきで柳井さんのご了解を頂きキャンペーンを実施したのですが、結果として一大ブームとなりました。
あのキャンペーンは、申し上げている本質からできたものではありません。ただあのキャンペーンから学んだマーケティングの本質はものすごくありました。それは「これを売ろうぜ」と全社員が思えるプロダクトを定め、全社一丸となって売っていくこと。全社を挙げて実行できれば、売り場も変わりますし、顧客にも伝わっていきます。そしてその結果、売上が上がれば社員もモチベートされるという良いサイクルが回っていきます。
もちろん顧客が求める商品であることが前提ではありますが、一番重要なのは社員全員が本気で取り組むという状況を作り出すこと。マーケティングは一人のカリスマが作っているように昨今メディアは取り上げているように思いますが、そうではないでしょう。マーケティング手法が多様化した現在も、この本質は変わらないのではないでしょうか。
ただし、この全社活動を円滑に進めるためにリーダーシップを発揮する方の存在も極めて重要だと思います。