実際、中朝両国は、北朝鮮が3カ月ぶりに弾道ミサイルを発射した9月25日、新型コロナウイルスの流行で停止していた鉄道貨物輸送を5カ月ぶりに再開した。習主席は9月9日の北朝鮮建国記念日に贈った祝電で「中国は朝鮮との戦略的な意思疎通を維持する」と明言した。「戦略的な意思疎通」は近年、強調されている表現で、日米韓に対して中朝両国が戦略的に対抗する方針を示しているとみられている。金正恩総書記も中国建国記念日の10月1日、習主席に祝電を贈った。今後、北朝鮮が7回目の核実験を実施しても、中国はロシアとともに、過去6回の実験とは異なり、国連安全保障理事会で北朝鮮に対する制裁決議に反対する可能性が高い。
日本政府関係者は「中国が北朝鮮の核開発を容認する決定をすれば、戦略的な大転換になる。米国と対抗するためには、北朝鮮の核も容認せざるを得ないという判断になるが、そうなれば、北朝鮮の核保有の既成事実化が更に進んでしまう」と語り、深い懸念を示す。
日本は従来、北朝鮮が弾道ミサイルを発射するたび、米国や韓国の当局者と電話で協議してきた。日米韓で結束して北朝鮮の軍事的挑発に屈しない姿勢を示すという戦略的メッセージだ。だが、今求められているのは、ロシアや中国が戦略的な変更をしないように迫る働きかけだろう。
だが、現在の日中間のパイプは細り、かろうじて秋葉剛男国家安全保障局長と中国共産党の楊潔篪政治局員のラインがつながっている程度だ。船越健裕外務省アジア大洋州局長と、劉暁明中国政府朝鮮半島事務特別代表との協議が活発に行われているとは言いがたい。外務省関係者は「中国はかつて、米国を説得してくれる役回りを日本に期待していた。最近は、日米が安全保障協力を強化しているため、日本との対話に魅力を感じていないようだ」と話す。
日中国交正常化50周年を迎えた9月29日、都内のホテルで記念レセプションが開かれた。出席者によれば、大型スクリーンに岸田文雄首相と習近平主席のメッセージが並んで映し出された。この出席者は「もう少し関係が近ければ、電話会談だとか、ビデオ映像によるメッセージ交換もできたのだろう。共産党大会を控えた中国が内政を考え、日中関係の改善を嫌がったのかもしれない」と語る。
このまま、中国の戦略的大転換を許せば、東アジアでは今後、危機に陥った際、中国と北朝鮮、ロシアが同時に軍事行動を起こす「複合事態」の可能性が高まることになる。
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