現在83歳の同氏は、「おそらく1960年代最高のアイス・クライマー」で、若い頃はピッケルを突き立ててアメリカをはじめ、モンブランなど世界中の、傾斜70度に及ぶ険しい氷壁を登っていた。
若き日のシュイナード氏は「一年の大半を、石炭を燃料にした持ち運び式の炉を手に山岳地帯を渡り歩いて過ごし」たという(アメリカのノンフィクション作家、ジョン・クラカワーの山行きを描いた作品『エヴェレストより高い山』による)。
シュイナードは言う。「実のところ、アイス・クライミングギアで儲かったことは一度もないし、また、儲けようと思ったこともない」と。
熱狂的にクライミングに打ち込みクライミング用のギアを細々と作って売っていたフェーズから方向転換し、アウトドアウェア事業の成功へ。そして、アメリカでは約十年前、日本では2016年からパタゴニア・プロビジョンズとして食品事業に乗り出した。
Forbes JAPANは、シュイナード氏の甥で、パタゴニアに1973年から関わり、シュイナード氏に近い存在として働いてきたヴィンセント・スタンリー氏にインタビュー。アウトドアから展開した食品事業の今後の計画、事業の裏に秘められた思いについて聞いた。
──パタゴニア・プロビジョンズを、山の道具販売から衣料品販売をへて、食品事業への展開という二度目の大きな変化と捉えた場合、山の道具のようにカスタマーを特定の対象に絞っているのか。
スタンリー:プロビジョンズでは、持続可能な形で獲った魚介類や、自然よりも速いスピードで土壌を肥やせる穀物を販売することで、農業や食料供給における問題を解決しようとしている。われわれは、食への意識が高かったり、ヘルシーな食べものに興味があったり、土壌や水の状態を良くすることに関心がある人たちの存在がコアなカスタマー層として存在することを認識している。こうしたカスタマー層が拡大するとともに、ビジネスも拡大する。