心理学者で本研究の主著者であるMargo Lecompte-Van Poucke(マーゴ・ルコント=ヴァン・パウク)がこの研究の着想を次のように説明している。
「私はSNSユーザーの1人として、フェイスブックやLinkedIn(リンクトイン)などのサービスで、有害なほどポジティブな表現に頻繁に遭遇しました。私は、ほとんどのフェイスブックの投稿には、型にはまった過度にポジティブなコメントがつけられていることに気づきました。私がネガティブな体験をシェアしたときでさえそうでした」
彼女の体験を他の人たちも共有しているのかどうかを知るために、ルコント=ヴァン・パウクは、子宮内膜症に関する700件以上のフェイスブック投稿とコメントを収集した。次に投稿とコメントの言語構造を研究し、有害なポジティブさ(toxic positivity)の証拠を探した。
ルコント=ヴァン・パウクは自身の仮説のどおり、有害なポジティブさがあると特徴づけられる言語パターンを数多く見つけた。「XはY(X is Y)」が象徴的なパターンで、たとえば「あなたはendo warror(子宮内膜症の戦士)だ」「歩行は薬です」「あなたは雌ライオンのような女性だ」などが多く見られた。
次に多かった有害なポジティブさのある言語の形態は「くじけるな」「信念を持て」「諦めるな」といった命令形で、相手に何をすべき(すべきではない)か、どう振る舞うべき(でない)かを伝えるものだった。
「SNS上で『戦士』や『雌ライオン』のようなイメージを使う人は、見えない慢性疾患(ICC)がある人たちを、自分の運命を制御している、体が病気になるのを防ぐことができるなどと表現します」とルコント=ヴァン・パウクはいう。「これは悲観的なかたちや冷ややかなかたちで現れることもあります」
つまり、誰かが協力を求めている投稿への返信に「あなたはこれに打ち勝つために必要なものを全部持っていますよ」と書くことは、ほとんどのケースで利益より害の方が大きい。そういう表現は、相手が自分の診断の現実を受け入れることを妨げ、病気の診断にともなうネガティブな考えや感情を処理することの邪魔をする可能性があるからだ。