作者存命中のアート作品としては史上3番目に高い6900万ドルで落札され、世界中に衝撃を与えた新しい資産クラスの「NFT(非代替性トークン)」。そのマーケットプレイスも次々と立ち上がり、新たなプラットフォーム競争が始まろうとしている。
新型コロナウイルスの感染流行が始まった2020年3月、「OpenSea(オープンシー)」の共同創業者デビン・フィンザー(31)とアレックス・アタラ (30)は、電話会議をしてついに腹をくくった。社員がたった5人の同社が手がけていたのは、NFTの作成・売買用のプラットフォームだ。
NFTとはブロックチェーン技術を利用してアートや音楽など唯一無二のデジタル資産の所有権を管理するコンピュータ・ファイルのことである。販売開始から26カ月が過ぎても、アクティブユーザーはわずか4000人で、月間取引高は110万ドルにとどまり、もうけとなる販売手数料は2.5%なので月間売り上げはわずか2万8000ドルにすぎなかった。NFT市場に「手応えはありませんでした」と、最高技術責任者(CTO)のアタラは振り返る。
ロックダウン(都市封鎖)が始まると、アタラはコロラド州の実家に戻り、地下室を仕事場にした。もっと多額の出資を得ていた競合「Rare Bits(レアビッツ)」が破産を宣告したところだった。彼とフィンザーは、年末までに事業を2倍に拡大できなければ撤退することに決めた。目標はかろうじて9月に達成できた。すると21年2月、NFT市場はとうとう休眠から目覚めると急騰し始めた。7月、オープンシーのNFT取引高は3億5000万ドルを記録。
そして同月、米ベンチャー投資会社アンドリーセン・ホロウィッツ主導の資金調達ラウンドで、評価額15億ドルで1億ドルの資金を調達した。8月、NFTへの過度な期待とFOMO(取り残される不安)が最高潮に達するなか、取引高は10倍の34億ドルに達し、経費が推定500万ドル未満だったその月、オープンシーは思いがけず8500万ドルもの手数料を手にした。
その後、取引高は月間約20億ドルまで後退したが、現在、同社プラットフォームのアクティブユーザーは180万人に上り、市場を席巻している。
NFTがコンサートのチケットに?
オープンシーの成功は、幅広く網を投げたからだけでなく、単に「然るべきタイミングで然るべき場所に居合わせ、ユーザーの要望に耳を傾けた結果」だと、フィンザーは語る。同プラットフォームでは、イーサリアムなどのブロックチェーン技術を使ってNFTを管理し、すべて暗号通貨で決済される。売り手は固定価格とオークション形式のどちらでも選ぶことができ、アーティストは小売り価格の1%を取り分とすることができる。
最終的に、NFTの所有権証明モデルは、コンサートのチケットから不動産に至るまで何にでも使えるとフィンザーはみているが、何がいつ成功するかはわからないという。「将来については常に、どうなるかわからないと思っている」と、彼は話す。