親の「見えない重し」をそっと取り除きたい 子育て拠点PORTOの挑戦

PORTOには、パソコンで仕事をするお父さんの姿も

人口減少社会の日本で、各地の自治体は、子育て世代から「暮らしやすい街」として選んでもらい、街の活気につなげていこうと躍起になっている。独自の支援策をつくって、我こそは子育てしやすい街であるとのPR合戦が続いているのだ。

そんななか、神戸市の都心部、三宮にある民間の子育て支援拠点「PORTO(ポルト)」が話題を集めはじめた。

ビジネス街の一角にあるこの施設は、道路に面した部分がガラス張りで、明るく開放的だ。約150平方メートルほどの室内は、半分ほどが子どもたちの遊び場になっている。

残りの半分は、親が自分のパソコンで仕事をしたり、ゆっくり読書をしたりでき、気軽にドリンクも注文もできるカフェのような空間。

もちろん遊び場との間に壁などはなく、子どもの姿がすぐ見て取れる。さらに、親子イベントの開催や、子どもを数時間預かってくれるサービスもあり、土日だけでなく平日にもたくさんの親子連れが足を運んでいる。

自分を犠牲にしないと子育てできない?


PORTOがオープンしたのは2020年の12月。オーナーは、大学生の時に出産し、シングルマザーとして子育てをしてきた佳山(かやま)奈央(30)だ。

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PORTOにはちょっと風変わりなコンセプトがある。それは「親こそゆっくりくつろいでほしい」「ときには子どもと離れて自分の時間を楽しんでほしい」という考え方だ。

こうしたコンセプトを掲げる背景には、子育てする親自身が自分のやりたいことや楽しみを犠牲にしなければならないという「見えない重し」を取り除きたいという、佳山の考えがある。

「日本では、子どものことが最優先であるべきで、親の人生の犠牲の下に良い子が育つという風潮がかなり強いと感じます。子どもにとっていちばん身近な大人である親が、自分の人生を犠牲にしないと子育てができないのは、違うと思ったんです」

子育て中の親たちのなかには、美容室に行ったり、買い物をしたり、リフレッシュしたりといった自分のやりたいことに時間を使うのは良くないと感じている人が多いと佳山は言う。

「仕事が休みの日に美容室に行ってから保育園に迎えに行くと、スタッフからいぶかしげに髪型を見られたりすることもありました。その視線が辛くて、美容室の帰りは、帽子をかぶって子どもを迎えに行くお母さんもいたりするんですよ」
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文・写真=多名部重則

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