こうした「厳しさ」を佳山がはじめて実感したのは、自身が大学生の時だった。在学中に出産した後、ビジネスコンテストの運営や就活などにアクティブに挑戦しようと、子どもを保育園に預ける時間が増えた。そのときに言われたのが「シングルなので仕方ないと思うけど、かわいそうだね」という言葉だったという。
「前向きなはずの挑戦が、ネガティブにとらえられたことがショックでした。親は自分のことは後回しにするもの、子育てには自己犠牲がつきものという考えが根強いなと感じたんです。この『PORTO』を自分で立ち上げたのは、こうした考え方をぶち壊したいという思いが原点にあります」
「見えない重し」を取り除くには
親になってからはじめて感じた、見えない手かせ足かせや重し。それを本人すら気づかないうちにそっと取り除いてあげたいというのが、佳山の思いだ。彼女は「若い世代はこうした制約を敏感に感じ取り、自分の人生を犠牲にしてまで子どもを産み育てることをあきらめる女性も多いのではないか」と推察する。
では、どうすれば、この親が感じる「重し」を取り除けるのか。佳山に聞くと、その方法はとてもシンプルなものだった。
「子どもを預けて美容室に行っていたお母さんがPORTOに戻ったときに、スタッフが『髪型、すてきになりましたね』と言えば、お母さんの罪悪感は消えます。買い物やカフェデートを楽しんできたご夫婦には、『ゆっくりできましたか』とお声がけするだけで、すっきりした気持ちで子どもを抱きかかえることができるはずです」
スタッフからの自己紹介は安心感につながる
そんな佳山は、シングルマザーとして支援される側も経験している。子育て支援の施設に行ったときには、次から次にスタッフの方から話しかけられるのが、「なんだか落ち着かなかった」。行政側は「話を聞いてあげなければ」と思うあまりの声がけが、当人にとっては「『親としてちゃんとしているか』のチェックをされているような気分になって、足が遠のいた」という。