「国葬」は必要か 弁護士・菅野志桜里が沈黙を貫いた理由

9月27日に執り行われた安倍元首相の国葬 (Photo by AP Photo/Eugene Hoshiko/Pool/Anadolu Agency via Getty Images)


「国葬新法は国葬を安定化させるのか?」をシミュレーション


それでは、「国葬新法」をつくれば、本当に今後、安定した国葬の実施が可能になるのでしょうか?タイプ1とタイプ2で分けて考えてみます。

〈タイプ1:中身のある要件をつくる場合〉


それなりに中身のある根拠法としては、例えば(1)「特別な功労がある」などの実質的な要件と(2)「国会の決議」あるいは「三権の長(衆議院と参議院の両議長・最高裁判所長官・内閣総理大臣)の合意」などの手続的な要件をあわせて定めるということが考えられます。

仮にこうした根拠法のもとで、ある特定の人物の国葬が持ち上がった場合、(1)「○○には特別な功労があったといえるのか」という点が議論され、(2)その点に関して、政治家なり政党なり各三権の長なりの「賛否」が何らかの形で明らかにされることになります。

たしかに「手続きが曖昧だ」という批判は避けやすくなるでしょう。

ただし、その手続きの過程で、まさに「○○氏は国葬に値するか」という故人への通信簿がリアルに公に議論されることになります。

しかし、○○氏が政治家であれ、芸術家であれ、スポーツ選手であれ、亡くなって間もない故人をこうした議論にさらすのは、日本の社会風土にはそぐわないのではないでしょうか。人間同士色々あるけれど、せめて故人を悼み遺族を支えようという、日本社会が培ってきたどっしりとした合意に傷がつくのではないでしょうか。

もう少し踏み込んで考えると、今後そんな「国葬新法」ができたとして、故人を厳しい議論に晒すこと覚悟で国葬提起がなされる場面は考えられない気がします。ご遺族の意向も含めると、「国葬新法」の制定は、事実上国葬廃止の効果をもたらすのではないでしょうか。

〈タイプ2:中身の薄い要件をつくる場合〉


では、議論を必要としないような制度設計はどうでしょう。例えば、「内閣の一存で国葬実施を決められる」ということを法律で決める、あるいは内閣の説明責任や国会報告だけを規定するという選択肢です。今の岸田政権の姿勢を法定化すると言い換えてもいいかもしれません。

ただ、今問題となっているのは、まさに基準もなく内閣の一存で国葬が決定され、国民の疑問に対して説得力ある説明もないために、国家としてとても不安定なかたちで国葬が行われているという状況です。こうした姿勢を法律で上書きしても、次回の国葬は安定しないし、この法定化そのものにまた大きな世論の反対が巻き起こってしまいそうです。

だとすると、こちらの「国葬新法」も解決になりそうにありません。
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文=菅野志桜里(The Tokyo Post編集長)

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