中でも注目を浴びているのが『死ぬのがいいわ』という楽曲。2020年にリリースした1stアルバム『HELP EVER HURT NEVER』に収録されたこの曲が、発表から2年以上経った今、全世界的に好評を博しているのだ。楽曲を使用したショート動画がTikTokで巨大な「バズ」を形成するなど、広がりは多岐にわたっている。
藤井 風 – “死ぬのがいいわ” Live at 日本武道館 (2020)
世界的なヒットを後押ししているのが音楽配信サービス、スポティファイの「バイラルチャート」というユニークなランキング機能だ。これはSNSやメッセージアプリでのシェア・再生回数を基にスポティファイが独自に指標化しているもので、要するに「今最もバズっている」楽曲がわかるランキングである。
SNSでは常に新曲が話題になるわけではなく、たとえばインフルエンサーの投稿などが大きな影響力を持つ。そのためバイラルチャートには通常のランキングに比べ、過去の楽曲や他国の楽曲がランクインしやすい仕組みになっているのだ。
グローバルバイラルチャート6位!
本稿を執筆している9月26日時点で『死ぬのがいいわ』はグローバルバイラルチャートの6位にランクインしている。今回人気の火付け役となったのはタイのSNSであり、8月2日に藤井風本人がツイッターで報告、喜びの言葉を述べているが、それから2カ月経った現在もなお、欧米を含めた世界各国で『死ぬのがいいわ』がチャート上位を席巻している。
当然日本でのランキングも上昇しており、いわば逆輸入のような形で人気が再燃したといえるだろう。
そんな『死ぬのがいいわ』。やや物騒かつキャッチーな曲名が原因なのか、最近では中高生がLINEでのコミュニケーションに使っているようだ。たとえば、以下のような用法で。
今日、xxx(友だちの名前)が、「おまえより俺の方がモテるから」って言ってきた
死ぬのがいいわ
さしずめ、Z世代の感性で「おまえ、死ね」を翻訳したといったところだ。元ネタを知らない人が読めば思わず身構えてしまう文面だが、知っている間柄でのやり取りならば、軽薄な冗談として通用するのだろう。筆者が若かった頃に「リア充爆発しろ」という言葉が流行していたのを彷彿としてしまう話である。
その曲名に違わず、『死ぬのがいいわ』は重めの感情をメロウに、それでいてテンポ良く歌い上げる曲だ。素直に受け取れば恋愛ソングだと解釈できる歌詞の中で、実に12回も繰り返される「死ぬのがいいわ」というフレーズは気だるげな声色も相まって鮮烈な印象を残す。
思わず口ずさみたくなるが、大人にとってはためらってしまう言葉である。そのような歌詞を気軽に使いこなし、日常会話にも転用できるのはZ世代ならではだ。歯に衣着せぬ強力なワードチョイスと軽やかなリズム感、それらを兼ね備えた語句が多感な若者を刺激し、広く使われるようになるというのはある意味必然であり、不変の真理であるとも言えるだろう。