経済・社会

2022.09.27 16:30

英国の住宅危機 新興「不動産テック」にできることは?


住宅購入の難しさ


英国を拠点とするトアデルはオックスフォード大学で工学を専攻。FTIコンサルティング(FTI Consulting)でインターンを行った後、ベイン・アンド・カンパニーでコンサルタントの職に就いた。

不動産市場に関心を持つきっかけとなったのが、自身の住宅購入体験だったのは意外ではないだろう。良い職に就いていたのにもかかわらず、住宅の購入には苦戦した。

「エクセルシートを作り、100軒のアパートの情報を記入した。どれも手が出せる値段ではなく、非常にいら立たしかった。年収は3万9000ポンド(約600万円)で、英国の平均より高かったのに」

後に妻と共同で住宅を購入したが、住宅購入者が直面する問題に対する関心は消えず、2016年にプロポチュニティーを創業した。同社は住宅価格の最大20%をエクイティローンの形で貸与する。ローンは、住宅が売却されるか住宅ローンの借り換えが行われるときに返済される仕組みだ。同社は、このサービスを利用することで購買力が最大約15万ポンド(約2300万円)上がるとしている。

データマイニング


この事業の鍵となるのがデータだ。利益を上げるためには、価値が上昇することが見込める不動産物件に貸し付けを行わなければならない。トアデルは、ベイン・アンド・カンパニーで経験を得たデータ分析技術に基づき、各地域や通り、住宅について利用可能な全ての情報を取り込み、価格上昇の見通しを予測するツールを開発した。このデータは購入希望者にも共有され、融資の判断に使用される。不動産価値が上がる可能性が高ければ、ローンを受ける資格が与えられる。

しかし、これは良いことだろうか? 購入者を支援するアイデアは新しいものではなく、英政府も、初めて住宅を購入する人に20%のエクイティローンを提供する支援プログラムを実施してきた。これは確かに購入者の助けになったが、価格上昇を加速させたと批判もされた。

プロポチュニティーのサービスは、同じようなインフレ効果をもたらすだろうか? トアデルはそう考えていない。英政府のプログラムは、建設会社が直接市場に出す新築住宅に限定されていた。トアデルいわく、こうした物件では、初めて住宅を購入する人の資金が多いことを念頭に、建築業社が住宅の価格を一律で上げることができる。

プロポチュニティーのサービスでインフレが進む可能性は低いという。理由の一つは規模の小ささだ。同社が現在ローンを提供している人の数は、政府の支援プログラム利用者と比べると少ない。新築物件に焦点を当てていないことも、もう一つの理由だ。同社が対象とする物件の価格は、複数の物件を販売する建築業社が設定するのではなく、個人の買い手と売り手の間の交渉で決まる。
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編集=遠藤宗生

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