そしてここにきて、欧州に新たな問題が浮上した。それは肥料不足だ。
欧州では、2年前から緊急事態が続いている。現在、目前にある問題はご存じのとおり、エネルギーだ。そして、もうひとつが食料である。食料生産のために必要とされる投入物の多くは、原油とガスの派生物であり、大量のエネルギーが不可欠だ。
こうした危機を招いたのは、政策の失敗と、ロシアがウクライナに仕掛けた戦争だ。欧州連合(EU)が自ら招いた「災い」の最新状況について、以下で説明していこう。
ノルウェーに本社を置く世界最大の窒素肥料メーカー、ヤラ・インターナショナルは2022年8月25日、天然ガス価格の高騰を受け、窒素肥料の生産を縮小すると発表した。これは、物価上昇に苦慮する地域の食料価格インフレに、さらなる圧力をかける動きだ。
欧州の他の肥料会社も、主に天然ガスなどの投入コストが高騰しているため、操業を一時停止している。こうした状況をさらに悪化させているのが、ロシアのガス大手企業ガスプロムによる、ノルドストリーム経由での天然ガス供給停止だ。ノルドストリームは、ロシアとドイツを結ぶパイプラインで、西欧諸国にとっては主要な天然ガス供給源のひとつとなってきた。天然ガスの供給停止は、ウクライナを支援する欧州に対して、プーチンが与えた罰だ。
にもかかわらず、天然ガス価格はこのところ下落している。2022年に入って価格が非常に上昇したことを受けて、投機筋がキャッシュアウトしているからだ。英国がフラッキング(水圧破砕法)によるシェールガスの採掘を解禁すると発表したことと、原発計画の再開を検討していることも、天然ガスの価格下落を助長している。
天然ガスの価格は、今後も下落を続けてもらう必要がある。1メガワット時当たりの価格はいまだに、6月比で100ドル以上も上回っている。
そのインパクトは、近ごろ縮小傾向にある肥料企業にも及んでいる。
ポーランドの化学大手グルーパ・アゾテ(Grupa Azoty)と、石油化学企業PKNオーレン(PKN Orlen)は8月、ヤラ・インターナショナルと同じく、窒素肥料の生産を一時停止すると発表した。英肥料大手CFファーティライザーズ(CF Fertilizers)は、2021年9月に肥料の生産を停止した際、化石燃料関連の投入コストを理由に挙げた。
ニューズウィーク誌が9月6日に掲載した、「欧州のエネルギー危機は、食料危機へと変化しつつある」という論説は、まさに的を射ている。
肥料生産にかかるコストの約70%は天然ガスだ。欧州としては、天然ガス価格にこのまま下落し続けてもらう必要がある。