自衛隊のジープに冷房とカーラジオがついた理由

2016年4月17日、地震の後、熊本県南阿蘇で倒壊した家屋の横を通過する自衛隊の車

6月中旬に陸上自衛隊の霧島演習場(宮崎県えびの市、鹿児島県湧水町)を訪れた。陸自の地対艦ミサイル連隊の取材だった。梅雨空から細い雨が降っていた。広い演習場内を移動するため、陸自のジープに乗せてもらった。ジープの正式名称は「1/2tトラック」。三菱自動車工業のパジェロがモデルになっている。自衛隊が使うジープだから、オシャレな内装が施されているわけではなく、悪路でも対応できるようにするためか、太いスチール製のパイプが車内に通されていた。

ガタガタ揺れる道中、パイプにつかまりながら、物珍しげに車内を見回した。「パワーウィンドーになっていないのは、戦闘で壊れることを前提にしているから、できるだけ手動にしているのかな」などと考えた。運転席の方に視線を移すと、カーラジオとエアコンのスイッチが見えた。「災害派遣に備えてラジオを装備しているのかな」「厳しい戦闘条件を考えて、エアコンもつけたのかな」などと考えながら取材をした。

帰京して自衛隊の関係者にこの話をすると、大笑いされた。関係者は「隊員のためを考えたんじゃなくて、その方が安かったからですよ」と言う。防衛省・自衛隊がパジェロを原型に自衛隊用のジープの生産を依頼した。そのときは、予算の問題があり、「カーラジオとエアコンは外してください」という話を持っていったという。

ただ、よく知られているように、日本では防衛産業は儲からない。長い間、武器輸出3原則のため、海外マーケットが存在せず、「顧客は自衛隊だけ」という状態が続いたからだ。民間企業には、防衛装備品を大量に生産するラインがない。パジェロも同様だ。企業側は「ラジオとエアコンを外すとなると、生産ラインを新しく1本つくらないないといけませんね。そうすると、逆に価格が上がりますけれど、よろしいですか」と回答した。防衛省・自衛隊は「いやいや、そういうことでしたら、ラジオ・エアコン付きでお願いします」とお願いし直すことになったという。
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文=牧野愛博

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