中国政府が10兆円注いだ国産旅客機「C919」が直面する乱気流

The First C919 Passenger Jet Plane (Photo by Feature China / Future Publishing / Getty Images)

中国は2006年の5カ年計画で、国産の大型旅客機の開発プロジェクトを立ち上げて以来、16年の歳月と数百億ドルの資金を費やして、「C919」と呼ばれる商用機を製造し、規制当局の認可を受ける態勢を整えている。6機の試験機のうち1機は、年内に中国東方航空が運航を開始する予定だ。

ただし、中国に技術を盗まれることを警戒した海外のサプライヤーが、最新技術を搭載した部品の納入を躊躇した結果、この機体の性能は、最先端とは言い難いものになっている。航空コンサルタントのマイケル・ボイドは、フォーブスの取材に「C919は昨日の技術を今日使えるようにしたものだ」と語っている。

中国政府は、C919の開発を行う国有メーカーの中国商用飛機(COMAC)に、目を見張るような大金を注ぎ込んだ。ワシントンの戦略国際問題研究所で中国経済を専門とするスコット・ケネディは、2008年の設立から2020年までにCOMACが受け取った資金は490億ドルから720億ドル(約10兆円)にのぼると推定している。

COMACは、この機体の製造で海外のサプライヤーに大きく依存せざるを得なかった。Airframer.comに掲載されているC919の約80の主要サプライヤーのうち、中国企業はわずか7社で、別の7社は外国企業と中国企業のジョイントベンチャーだとケネディは指摘した。

欧米企業がどのグレードの技術を提供しているかは不明だが、競合の成長を手助けしたくないという気持ちと、知的財産の盗難への恐怖が、それを抑制したと考えられている。

おそらく最も重要な部品であるエンジンは、ゼネラル・エレクトリックとフランスのサフラン社の合弁会社であるCFM社のもので、同社はC919のエンジンが同社の最高グレードのエンジンであるLEAPエンジンの改良型だと述べている。しかし、コンサルティング企業AeroDynamic AdvisoryのRichard Aboulafiaは、このエンジンが実際には旧型のCFM56のアップグレード版ではないかと疑っている。

二流のテクノロジーを搭載したC919は、性能の重要な指標である航続距離で大きく劣ることになった。COMACによると、この旅客機の航続距離は約2500海里で、エアバスA320neoやボーイング737 MAXに大きく遅れをとっている。このため、すでにA320や737 MAXが就航している世界中の数百の路線でC919を使うことはできず、ボイドは、この機体の海外での販売は困難を極めると考えている。

C919の定価は6億5300万元(約130億円)と高くはないかもしれないが、航空会社がパイロットや整備士を訓練して新しい機種に乗り換えるには、費用も時間もかかるとボイドは言う。「A320や737と比較して、運用コストの削減や性能の優位性がなければ、C919を導入する意味はない」と彼は指摘した。
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編集=上田裕資

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