科学と工学における「代表性」についての『リトル・マーメイド』騒動の教訓

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最近、騒動になるものは、正直いって困惑せざるを得ないものがある。現在「不条理劇場」となっているのは、ディズニーの『リトル・マーメイド』だ。アンデルセンの童話を実写化したこの作品の予告編で、黒人の歌手兼女優のハリー・ベイリーが重要なキャラクターを演じることが明らかになったのだ。

ナショナル・パブリック・ラジオによると、この予告編の再生回数は1200万回を超え、多くの子どもたちがキャラクターの異なる解釈を見ることに興奮しているようだ。しかし、悲しいことに、#NotMyArielというハッシュタグがトレンドにもなっている。このようなばかばかしさの中に、私の妻アヤナが、存在もしない架空の存在に対する「偽りの怒り」と呼ぶものが明らかにするSTEM(科学、技術、工学、数学)における代表性についての教訓がある。

私は大気科学者であり、2021年に3つの国立アカデミーに選出されるなど、一定のキャリアを積んできた。NASAとジョージア大学でのキャリアの中で、私はSTEM分野における多様性の欠如を目の当たりにしてきた。私は、地元の科学フェアで、STEM関連の専攻の数字で、そして専門的なキャリアの機会の範囲にわたって、多様性の欠如を見てきた。2016年、私は、なぜあるグループがSTEM分野で十分な存在感を示していないのかを探ってみた。私の同僚による主な理由は以下のとおりだ。

・何が「良い」キャリアとみなされるかについての一部の人種内の文化的慣性
・男女の役割分担に関する時代遅れの考え方
・若者を、興味深く、応用が利き、楽しい方法でSTEMに触れさせること
・メンターがいるかどうか
・映画やメディア、その他のフォーラムで紹介される、科学者やエンジニア「像」についてのステレオタイプ

最後の2点は、この『リトル・マーメイド』の議論に関連するものだ。私はこれまで何度か「あなたは科学者に見えない」といわれたことがある。2つのエピソードを紹介しよう。

米気象学会(AMS)の会長を務めていたとき、私は他の同僚といっしょに学会のホテルのロビーに立っていた。ある女性が私だけに近づいてきて、空港シャトルの運転手かどうかと尋ねてきた。

また、ワシントンD.C.で開催された大規模な科学会議に招かれ、特別講演を行ったことがある。私はスーツを着ていて、そこにいる数少ない黒人の科学者の1人だった。すると、何人もが、ホテルの従業員かどうか、あるいは、あたかもそうであるかのような質問を私に投げかけてきた。あまりにひどいので、私はホテルのスタッフに頼んでいっしょに自撮りをしてもらった。その写真をツイートし、カンファレンスのハッシュタグを付けて「ホテルのスタッフは赤いブレザーを着ている」というようなことをつぶやいた。
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翻訳=上西 雄太

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