インドで偶然ビートルズに遭遇 1968年の出来事を追体験するドキュメンタリー

「ミーティング・ザ・ビートルズ・イン・インド」(C) B6B-II FILMS INC. 2020. All rights reserved


門の外で待つこと8日間、サルツマンは運良くアシュラムに入ることが許され、超越瞑想の指導を受けることが叶った。セッション後、彼は失恋の痛手からすっかり立ち直っていた。心の安寧を得た彼がアシュラム内を歩いていると、ガンジス川を見下ろすテーブルを囲んで座る、見覚えのある4人の顔を見つける。


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サルツマンが「一緒にいいかな?」と訊くと、ジョン・レノンが「もちろん」と答え、「座れよ」とポール・マッカートニーが続けたという。こうして、サルツマンは同じ施設で超越瞑想を学ぶ人間として、ビートルズのメンバーと親しく交流することになる。

当時、世界的な人気グループがインドを訪れるということで、メディアによる取材合戦も過熱していた。そのなかで、もともと彼らが来ていることなど知らず、突然アシュラムに現れた20代の青年に、ビートルズのメンバーは親しみを感じて胸襟を開いていった。

サルツマンが彼らと一緒に過ごしたのは、奇しくも門の外で待っていたのと同じ8日間。その奇跡の時間に、彼は特にジョンとジョージ・ハリスンとは親しく話し、ジョンとポールが曲をつくる現場にも居合わせた。アシュラムでは彼らは完全にプライベートな時間を楽しんでおり、サルツマンは手にしていたカメラでその姿を次々とフィルムに収めていった。


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サルツマンにとってインドへの自分探しの旅は、失恋の痛手を癒す超越瞑想への導きとなり、素顔のビートルズたちと過ごす愉楽の時間ともなったが、カナダへの帰国後、彼は現地で撮った写真を自宅の地下室に仕舞い込み、その存在すら忘れてしまっていた。

1968年の出来事を追体験する旅


その失われた記憶を呼び覚ましたのは、彼の娘であるデヴィアニ・サルツマンだった。インドから帰国して32年後、作家でありキュレーターでもある彼女のひと言によって、サルツマンは地下室に眠っていたビートルズの写真に気がつき、それらを基にして今回のドキュメンタリー映画「ミーテイング・ザ・ビートルズ・イン・インド」をつくり上げた。


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もちろん作品には、サルツマンがインドで撮影したビートルズの写真も多数登場する。マハリシを中心にビートルズのメンバーと彼らのパートナーが一堂に会した写真は、リバプールの博物館「ビートルズ・ストーリー」にも飾られている有名なもの。その他未公開のショットも作品には数多く散りばめられている。

それらの写真は記録としてたいへん貴重なものではあるが、このドキュメンタリーが他の「ビートルズもの」と異なるのは、サルツマン自身が辿ってきた人生の軌跡が色濃く投影されているからだ。
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文=稲垣伸寿

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