生徒の試験結果に「格差」があるのは低予算と非効率的な授業の所為だけじゃない

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一般に低所得者層の生徒の成績は、裕福な家庭の生徒よりも悪いといわれている。それは、低所得者層は有能な教師に出会う機会が少なく、低所得者層が通う学校は少ない資金しか得ることができないことが理由とされている。しかし、最近提出された証拠によれば、どちらの説明にも疑問が投げかけられている。

米国で行われた最近のある調査では、低所得者層の子どもも高所得者層の子どもも「有能な教師にほぼ等しく出会うことができる」という結果が出ている。26の学区のデータを5年間にわたって分析したこの研究では、低所得層の生徒たちほど新米教師と出会う傾向が高いことがわかったが、その格差は小さく「生徒の学力差に与える影響はごくわずかだ」と結論づけている。

学校の資金については、かつては裕福な生徒が通う学校の方が、低所得者が通う学校よりも資金が潤沢だったのは事実だ。とはいえ、一部の極端に貧困な学校では依然として基本的なニーズを満たすための資金が不足している(こちらとかこちらを参照)ものの、過去50年の間に状況は概してはるかに公平なものになってきている。28の州で、州最高裁判所が州資金の分配方式をより公平にするよう要求している。それに加えて、連邦政府は、より貧しい子どもたちを対象にした学校に資金を提供している。その結果、アーバン研究所の調査によれば、すべての政府資金を合わせると「ほとんどすべての州で、貧しい子どもたちに対しては、そうでない子どもたちよりも生徒1人当たりに多くの資金が配分されている」と結論づけている。配分が少なかったのは2、3の州だけだ。

一方、米国の学校教育費の全体は増加傾向にある。2019年には、K-12教育(日本では幼稚園から高校3年生に相当)に費やされる生徒1人当たりの金額は、過去10年以上の中で最高水準となった。しかもここでは、この2、3年で投入された、1900億ドル(約27兆2400億円)近くもの空前の連邦政府の新型コロナウイルス感染症救済資金のことは考慮されていない。この額は、通常のK-12教育に対する通常の年間連邦支出の5〜6倍に相当している。

それにもかかわらず、読解力のスコアは1998年から、数学のスコアは2010年から停滞または低下しており、低得点者と高得点者の間の格差が拡大している。高校レベルでは、1970年代初頭からテストのスコアには進歩がない。有能な教師と十分な資金は重要だが、それは成功を保証するものではない。

それは、異なる管轄区域や地域を比較してみると、明らかになる。たとえばワシントンD.C.では、生徒1人当たりに2万2759ドル(約326万5000円)を費やしており、これは州レベルで比較した場合全米で2番目に高い水準であり、米国平均の1万4480ドル(約207万7000円)をはるかに上回っている。しかし、多くの生徒の教育はいまだに不十分である。たとえば、数年前にワシントンD.C.の学校を卒業してディストリクト・オブ・コロンビア大学に入学した128人の学生のうち、126人が補習を必要とした。そして、全体としてアメリカは、国際的なテストで生徒の成績が上回る他の多くの国よりも、生徒一人当たりの支出額が多い。
--{人種差別と貧困が主犯とされがちだが……}--
では、教育格差の説明が、有能な教師へのアクセスや学校資金の水準で行えないとすれば、それは何なのだろうか?

最近は、人種差別と貧困という2つの答えが提示されている。かつての教育改革者たちは、こうした要因を「言い訳にはならない【略】学校は乗り越えられる」といっていた。だが、結局大きな進展がないことに落胆した多くの人々が、低所得家庭や歴史的に不利な立場に置かれてきたグループの生徒の成績を向上させるには、まずそれらの問題に取り組まなければ不可能であるとの結論に達している。

明らかに、人種差別と貧困に取り組む必要がある。ただし、それは教育成果格差の説明のすべてではないし、それらが「修正」されるまで、教育そのものの修正を待つ必要もないということは大切だ。

まず、人種を取り上げよう。標準テスト(米国で行われている共通学力テスト)では、黒人や褐色人種の生徒たちが白人の生徒よりも集団として低い点数を取るので、本質的に人種差別的であると主張する者もいる。また、多くの教育関係者は、非白人の生徒が学業面で苦しむ最大の理由は、白人の生徒のようにカリキュラムに自分自身や自分たちの文化が反映されていないためだと考えている。

もちろん、標準テストが文化的に偏らないように、またカリキュラムがすべての生徒に「窓」だけでなく「鏡」も提供できるように(外の世界を知るだけでなく自分自身の姿も知ることができるように)、できる限りのことをしなければならない。しかし、何千人もの白人の生徒も、標準テストでは低い点数を取っている。たとえばロードアイランド州では、2019年に実施された全米読解力評価において、白人の8年生(日本の中学2年生に相当)のうち約3500人が読解力の合格レベルを下回っていた(ちなみにヒスパニック系では約2000人、黒人では約800人だった)。黒人やヒスパニック系の生徒の方が白人の生徒よりも読解力の習熟度が低い傾向にあったのは事実だが、低得点の基本的な理由が人種差別だとすれば、なぜこれほど多くの白人の生徒が低得点なのだろうか。

そこで目が向くのが貧困だ。確かに貧困には、ストレスの原因となる食糧難や住宅難などの、学びにくい要因が結びついている。しかし、学力低下の原因は貧困そのものではない、という証拠も存在している。

ブルッキングス研究所が2012年に行った、子どもたちが幼稚園に行く準備が整っているかどうかを調べた調査について見てみよう。予想通り、貧しい子どもたちは、高所得の子どもたちに比べて、準備が整っていないことがわかった。しかし、学士号以上の学位を持っている母親を持つ子どもを調べたところ、同カテゴリーに属する貧困層の子どものうち、幼稚園に進学する準備ができていたのは91%であったのに対し、同カテゴリーに属する高所得層の子どものうち、幼稚園に進学する準備ができていたのは84%に過ぎなかった。なおこのカテゴリーは貧しい子どもが上回った唯一のカテゴリーだった。

大学教育を受けた親がいても、学業的な成功は保証されない。2019年の全国リーディングテストでは、下位1/4のスコアに入った8年生のうち、59%の親が大卒だった。とはいえ、成功できる可能性はぐっと高まる。このテストで上位半分以上の成績を収めた生徒のうち、高校を卒業していない両親を持つ生徒はわずか17%で、44%は大卒の両親を持っていた。
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翻訳=酒匂寛

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