「貿易・移民政策はどうあるべきか」悪化するロシア経済から米国が学べる教訓

Getty Images

ウクライナ侵攻を受けた西側諸国の制裁措置によって引き起こされたロシアの経済問題は、米国にとって貿易・移民政策について学ぶ材料となっている。輸入や新規労働者の流入阻止は、貿易や移民に反対する者にとっては良い策に思える。しかし経済学者はそうした政策が消費者に悪影響をおよぼし、経済を損なうと考えている。制裁の長期的な影響はロシアにとって災難であり、米国の政策立案者はそこから学ぶことができる。

ロシア政府の高官らは、自国の経済が問題を抱えていると(私的に)結論づけている。「米国と欧州の制裁の影響が広がるにつれてロシアは長期にわたって深刻な不況に直面する可能性があり、政府向けに作成された内部報告書によると、ロシア経済を動かすのに長年頼ってきた部門に支障をきたしている」と報告書の草案をみた米ブルームバーグは報じている。

「この報告書は2025年までに20万人のIT(情報技術)専門家が国を後にする可能性があると予測しており、頭脳流出が拡大しているという初の公式予測だ」とブルームバーグは指摘する。ロシアの経済学者アレクサンダー・イサコフは「西側諸国の技術へのアクセスの減少、外国企業の撤退、人口動態をめぐる厳しい環境により、この国の潜在成長率は今後10年間で0.5〜1%に縮小するだろう」と結論づけている。

ロシアで起きている出来事は、米国が直面している問題との比較対象となる。発給数を抑えているため、米移民局は今年4月に申請者の80%、数にして約40万人の就労ビザH-1Bの新規申請を却下した(H-1Bビザの専門家の多くはテクノロジー分野で働いている)。経済学者のジョバンニ・ペリとリーム・ザイウルによると、新型コロナウイルス感染症のパンデミックとトランプ政権時の米国の移民政策により、労働年齢の移民が200万人減少しているという。「移民不足」はインフレ、物価上昇、さまざまな業種における人材不足を引き起こしている。

「ロシア経済に関する報告書は、高学歴の移民が米国を含むあらゆる国の経済成長を促進するという、言わずもがなのことを裏づけている」と政府内外で移民政策に長年携わってきた米コーネル大学法学部の客員研究員ランデル・ジョンソンは話す。「米議会がこの事実を踏まえてH-1Bビザの発給増に踏み切っていないのは茶番としか言いようがない」と断じる。

さらに、米国の問題は技術系人材に止まらないとジョンソンは指摘する。「ロシアと同様、米国でも労働力の高齢化が進んでいるという議論の余地のない人口動態予測は社会保障制度の存続を脅かし、合法的な労働者の流れを拡大することで多くの移民を受け入れる方法を見つける必要があることを示している。そうすれば米国は経済、特に医療分野などのサービス産業において増え続ける高齢者のニーズに対応することができるようになる」と話す。
次ページ > ロシアが手に入れたのはどこにも行けない片道切符

翻訳=溝口慈子

ForbesBrandVoice

人気記事