男性用腕時計は、砲撃のタイミングを計っていた砲兵が、懐中時計を手首に巻いたことから始まったとされている。19世紀後半のことだ。以後、多くの工業製品同様、腕時計も軍用として発展してきた歴史がある。
パイロット・ウォッチはその最たるものだ。映画『トップガン』の2作を観てもわかるように、フライトと時間は密接な関係がある。最新作では、あらゆるものがコンピュータ化され時間の計測もデジタルとなっているが、パイロットにとって腕時計は欠かせないツールであるのは間違いない。
そんなパイロット・ウォッチだが、とくに明確な規定はないが、正確に計測できることはもちろん、フライト時に想定される気圧の変化や、計器類などから発せられる磁気から時計を守る必要性がある。
その機能を早くから満たしていたのがIWCのパイロット・ウォッチ。1936年には初のパイロット・ウォッチ「スペシャル・パイロット・ウォッチ」を製作している。
このとき、すでにケースは3ピース構造で裏ぶたにはスナップバック(はめ込み式)が採用されており、気圧の変化への対応がなされていた。さらにヒゲゼンマイなどパーツを考慮することで、高いレベルの耐磁性をも備えていたようだ。
そんな実績もあり、48年にはイギリス空軍からの要請で新たなパイロット・ウォッチを製作し、正式採用されることになる。
それが高い耐磁性の代名詞ともいえる軟鉄製インナーケースを備えた「マーク11」。現在まで続くマークシリーズのみならず、「スピットファイア」や「プティ・プランス」「ビッグ・パイロット・ウォッチ」などの起点となった腕時計でもある。
今年のIWCはパイロット・ウォッチの年で新作の目玉が「トップガン」コレクション。4度公開延期となった映画『トップガン マーヴェリック』と同年の発表というのも運命のようである。
ここに紹介するのは、ブラックセラミックケースの「ビッグ・パイロット・ウォッチ43・トップガン」。直径43.8㎜のケースは、厚さ13.9㎜と軟鉄製インナーケースを採用している同社のパイロット・ウォッチとしては薄型となっているので、装着感も程よい。さらにケース素材のセラミックに加え、裏ぶた、リュウズがチタン製と、見た目からは想像できないほど軽量なのである。
コクピットの計器ではないが、現代社会は多くの電化製品に囲まれ磁気は至る所に存在する。機械を守るためにも耐磁性は最重要の機能である。それに機能美ともいえる伝統のデザインと使い勝手のよさが融合し、最高のラグスポとなっている。
セラミック製のケースとダイヤルはブラックで、インデックス、時分秒針はホワイト。このメリハリのある色使いが高い視認性を生んでいる。また、パイロットがグローブをしたままでも操作できるリュウズは円錐形で大きく、抜群の使い勝手だ。搭載のムーブメントはIWCのお家芸でもある、高効率な両方向巻き上げが可能なペラトン式自動巻きCal.82100で、パワーリザーブは約60時間である。
1936年に製作された、IWC初のパイロット・ウォッチ「スペシャル・パイロット・ウォッチ」。86年も前に高い気密性と耐磁性を備えていたとは驚きである。
アメリカ海軍の戦闘機パイロットのトップを養成する戦闘機搭乗員養成機関=TOP GUNは、現在、ネバダ州ファロン海軍基地にある。IWCの『トップガン』は、そのオマージュモデルとして2007年に誕生した。