中小ビジネスこそ米国経済の源 コロンビア大がハーレムで始めたこと

HLVP(ハーレム・ローカル・ベンダー・プログラム)の創設者、ニコア・エヴァンス氏。来夏はハーレムでの大規模な屋外コンサートも企画

ニューヨーク市のマンハッタンにある歴史的な黒人地区ハーレムに「ハーレム・ローカル・ベンダー・プログラム(HLVP)」と呼ばれるビジネス支援プログラムがある。対象は地元ハーレムの人種民族マイノリティまたは女性によるスモール・ビジネス・オーナーだ。

小規模ビジネス・オーナーを無償支援


このプログラムには毎年、約20人のアントレプレナー(起業家)が参加する。今年度の参加者が手掛けている商品はコーヒー豆、ホットソース、ケーキやクッキー、ボディケア製品、アパレル、ドッグ・トリートなど。すでに実店舗を運営している人、商品をeコマースとポップアップ・ショップで販売している人、本業との掛け持ちとして始めたばかりの人などビジネスの規模と形態は様々だが、いずれも「スモール・ビジネス」の範疇となる起業家たちだ。

HLVPはこうした小規模ビジネス・オーナーにビジネス拡張に必要不可欠な情報と支援を無償で提供する。参加者はリモートまたは対面のクラスを週2回ほど受講する。科目はファイナンス、ブランディング、eコマースに欠かせないソーシャル・メディアの活用法など多彩だ。ビジネス・カウンセリングもあり、各々の目指すビジネスの規模や形態により予算、ローン、キャッシュフロウなどについて個別のアドヴァイスを受けられる。他にもマンハッタンの中央部にある大型コンベンション・センターで開催される商品見本市の見学や、成功した起業家のレクチャー聴講もある。

「スモール・ビジネスは米国経済のエンジン」


HLVPの創設者はハーレム在住のニコア・エヴァンス氏。エヴァンス氏はマーケティングとビジネスのストラテジー専門家だが、その信条は「ストラテジックなパートナーシップとビジネス・プログラムによって文化、地元、コマースの橋渡しをする」。つまり米国の歴史背景により長年にわたってビジネスの成功を阻まれてきた黒人コミュニティに、独自の文化を活かしたビジネスのあり方を提唱、支援するのだ。

エヴァンス氏は「ソーシャル」「パートナーシップ」といった言葉を多用する。ビジネスは人と人とのつながりによって生まれ、成長するからだ。氏が運営するコンサルティング企業の名は「BNPアドバイザリー・グループ」と言い、BNPが「ブランド/ネイバーフッド(地元)/ピープル」の頭文字であるのも人と地域、そこにある文化を大切にするストラテジーに基づいている。

その信念ゆえに氏は月に一度、HLVPのメンバー全員が集う交流会をズームではなく、自身が共同経営するレストランで開催する。メンバー同士はチャットでも繋がっており、ビジネス助成金などの情報交換を行なっている。

HLVPに授業を提供するのはコロンビア大学ビジネス・スクールのSBDC(スモール・ビジネス・デベロップメント・センター)部門だ。近年、コロンビア大学はキャンパスを拡張し、ビジネス・スクールの新学舎はハーレムにある。参加者の事業形態と就業時間が様々なこととコロナ禍が重なり授業の多くはリモートだが、対面授業はモダンな新学舎で行われる。講師とビジネス・カウンセラーも同ビジネス・スクールのSBDC部門に所属、またはSBDCによって選ばれる。
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文=堂本かおる

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