論文著者は、ハーバード・メディカル・スクールと、ハーバード大学T・H・チャン公衆衛生大学院の研究チームだ。使われたデータは、大規模コホート研究の「Nurses’ Health Study(看護師の疫学研究)」のⅡとⅢ、ならびに「現代の青少年調査(Growing Up Today Study/GUTS)」のものだ。コホートは、女性が96%で、平均年齢は57歳だ。
被験者がおよそ5万5000人にのぼった今回の研究は、新型コロナウイルス感染症のパンデミックが始まった直後の2020年4月にアンケート調査が実施された。
被験者の3分の1以上は医療従事者だ。アンケート調査は2020年4月に、新型コロナウイルス未感染者に配られ、不安やうつ、孤独感、ストレス、悩みに関する質問などが含まれていた。被験者の6%にあたる3200人は、研究が実施されてから19カ月間以内に新型コロナウイルス感染症を発症していた。
感染した兆候があると報告した被験者については、感染後に、4週間以上続く新型コロナウイルス感染症の後遺症があったかどうかを確認した。後遺症には、ブレインフォグ(頭がぼんやりして思考力が低下すること)や倦怠感、味覚や嗅覚の喪失、うつなどの症状が含まれる。
全般的に言うと、新型コロナウイルス感染症の発症前に不安などの症状があったと報告した被験者は、のちに4週間以上続く後遺症を訴える可能性が50%高かった。
これまでの研究で、高齢や肥満のほか、高血圧などの併存疾患と、新型コロナウイルス感染後に重症化したり後遺症を発症したりする可能性の高さとのあいだに関係性があることが明らかになっている。しかし、心理的な症状が疾患の転帰に影響を与えることを突き止めた大規模研究はほとんどない。
今回JAMAサイカイアトリーに掲載された研究論文の著者らは、新型コロナウイルス感染症の後遺症が、心因性疾患ならびに症状の捏造と関係していることを示唆する意図はまったくないと明言している。実際、新型コロナウイルスへの感染後に何らかの症状を訴えている人の40%以上は、これまでに著しいストレスやうつの症状、孤独感などを経験したことがない人たちだ。
それよりも注目すべきは、このたびの研究対象者が極めて限られた集団であり、米国一般市民の代表とは言えないことを、論文著者が認めている点かもしれない。研究の対象となった人々の多数は白人女性の医療従事者で、50代後半だ。さらに、症状は自己申告によるものであり、臨床的に診断が下されたわけではない。
この研究に、いくつかの制約があることは確かだ。また、医療従事者がいまだに新型コロナウイルスへの感染リスクにさらされてストレスを感じており、不安や悩みを抱えている状況が続いていることも確かだ。しかし、今回の研究は重要な問題を提起している。それは、コロナ後遺症のリスク要因をより詳しく特定する必要があり、コロナであれ、それ以外のものであれ、ストレス要因を軽減する必要性があるということだ。
(forbes.com 原文)