そこでオーナーのジョン・キャツィマティディスは警備体制の強化を決め、警官出身の屈強な警備員を雇い、銃を携行させてグリステデスと同じくスーパーの「ダゴスティーノ」の計30店舗に常駐させることにした。そのためのコストは自身が負担するか、商品の値上げによって客側に転嫁するという。
「店舗が狙われやすい時期になっているんです」とキャツィマティディスはフォーブスの取材に語り、こう続ける。「うちの店で盗みを働いたり、うちの従業員に手を出したりすればただでは済まないと知らしめたい。盗みたいならどこかほかへ行けとね」
学校など公共の場に武装した警備員を配置することの是非をめぐって全米で議論が加熱するなか、国内各地の小売店はすでに武装警備の強化に乗り出している。米国の多くの大手小売業者やショッピングモールを顧客にもつ警備大手のアライド・ユニバーサルによると、スーパーに派遣する武装警備員の需要は昨年7月以降108%急増している。
同社のスティーブ・ジョーンズ最高経営責任者(CEO)は、新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的大流行)が起きてから、小売店が直面する「課題や警備には「顕著な変化」が生じていると説明する。そのため「各店とも警備姿勢の見直しを余儀なくされ、警備の層を厚くせざるを得なくなっている」という。
どういうことか。パンデミックの発生後、小売店はマスクの着用義務や対人距離の確保に関するルール、サプライチェーン(供給網)の混乱など新たな課題に対処しなくてはいけなくなった。だが、店舗を訪れる客のなかにはこうした措置や状況にいら立つ人もいて、従業員との衝突につながるケースもある。実際、客にマスクの着用を求めた店舗スタッフが腕を骨折したという例もある。
一方、プロの窃盗団が店舗のガラスを破って押し入り、相当額の商品を奪って逃げる事件も増えている。業界団体の小売業経営者協会(RILA)とバイ・セーフ・アメリカ連合によると、昨年、店舗を標的とした組織犯罪が増えたと回答した小売業者は全体の7割近くにのぼった。窃盗の年間被害総額は690億ドル(約10兆円)に達するという。盗品は多くの場合、オンラインで転売されている。