ただしそこには大きな落とし穴がある。何よりもまず私たちは、ウクライナのチェルノブイリや日本の福島で起きたような大事故を繰り返すわけにはいかない。これらは、頻度は低いが大きな被害を生むと私が考える事象である。
原子力の歴史の中で重大な事故はほとんど起きていない。しかし、原子力発電所には、重大事故が起きたときに都市全体の人々を永久に立ち退かせてしまうという他に類を見ない潜在力がある。
チェルノブイリ事故は最終的に35万人の人々を住まいから追いやった。チェルノブイリ原子力発電所の周囲には、居住者のいない何千平方キロメートルという広さの立ち入り禁止区域が設定されている。チェルノブイリより人数は少ないものの、福島の事故でも多くの人々が立ち退かされた。
原子力発電がその炭素排出量削減能力を現実にするためには、あのような事故が不可能であることを保証しなければならない。
より安全な原子力発電所を作る
最近私は、エネルギー省原子力エネルギー局次官補のキャサリン・ハフ博士と話す機会を得た。
ハフ博士は、事故が起きたときに作業員が原子力発電所から立ち去ることが可能で、発電所を安全な状態で停止できることを確実にするためには、パッシブ・セーフティ(受動的安全)システムが鍵になると説明した。
そこには重要な区別がある。一般の人々は原子力発電所に失敗の起こらない「フェイル・プルーフ」の設計を期待するかもしれないが、数多くの理由により、その目標は決して達成されない。要するに、起こりうるすべての事象に対して防御することは不可能なのである。このため私たちは、起こりうる結果を軽減する、フェイルセーフ設計を実施することに努めている。
フェイルセーフ設計の単純な例は、電気のヒューズだ。ヒューズは、そこを過剰な電流が流れようとする事故を防ぐことができない。しかし、事故が起きてしまったとき、接続部は融解し電気の流れを止める。これが異常発生時の安全な側の動作であるフェイルセーフ状態である。チェルノブイリも福島も、フェイルセーフ設計ではなかった。
しかし、そのようなフェイルセーフ設計はどうすれば実現できるのか? ハフ博士は2つの例を挙げた。
1つ目はWestinghouse(ウェスティングハウス)社の加圧水型原子炉(PWR)AP1000 だ。福島で起きた問題は、電力が失われたとき、原子炉の炉心を冷却する能力が失われたことだった。
この新しい原子炉は、重力や自然循環、圧縮ガスなどを使って冷却水を循環させることで炉心と格納容器の過熱を防ぐ。
パッシブ冷却に加えて、事故耐性の強い次世代燃料タイプの開発にも革新が起きている。たとえば、三重等方性被覆(TRISO)粒子燃料は、ウラン、炭素、酸素の燃料核から出来ている。三層構造のおかげでそれぞれの粒子自身が封じ込め(格納)システムとして機能する。TRISO粒子は現在の核燃料よりもずっと高い温度に耐えることができるため、原子炉の中で溶けることがない。
ハフ博士は、改良型原子炉のオンラインデモを10年以内に公開する予定で、そこではTRISO粒子が詰まったペブルベッドが見られるだろうと話した。
この2つのイノベーションは、未来の原子力発電所が重大事故を起こさないことを確かなものにしてくれるかもしれない。しかし、対処すべき課題は他にもあり、放射性廃棄物の処理はその1つだ。
(forbes.com 原文)