経済・社会

2022.09.16 07:45

米国の利上げ政策が続くなか、日本政府の本音は緩やかな円安の定着か

Getty Images

外国為替市場では円の先安観が根強い。今月5日には、一時、1ドル=144円台と1998年8月以来、24年ぶりの円安水準にまで下落した。

最近の動きは「『円安』というよりもむしろ、『ドル高』の側面が強い」というのが市場関係者のほぼ一致する見方。その背景にあるのは、米国の物価高止まりに伴う金融引き締め観測の高まりだ。

ドル買いが加速したのは、8月下旬に開催された米カンザスシティー連銀主催の経済シンポジウム(ジャクソンホール会議)からだ。

米国の中央銀行である連邦準備制度理事会(FRB)のジェローム・パウエル議長が同会議で講演。早期の金融緩和観測の高まりに釘を刺す「タカ派寄り一色の内容だった」(為替アナリスト)のをきっかけに、株式市場中心に広まっていた「2023年には利下げへ転じるのではないか」との楽観論は吹き飛ばされた。

米1%利上げのシナリオが急浮上


市場関係者の注目する指標のひとつが「フェドウォッチ」。米金融政策の先行きに対する読みを数値化したものだ。「フェド(Fed)」とは「Federal Reserve System」(連邦準備制度)の「Federal」の略だが、関係者の多くが「FRB」の意味で使う。

同指標は市場参加者の金利見通しを敏感に反映する米フェデラルファンド(FF)金利先物の価格を基にはじき出す。数値として示されるのは、金融政策を決める連邦公開市場委員会(FOMC)でFRBが政策金利を据え置くか、あるいは変更するか否かの確率だ。

それによると、今月の20日と21日に開催予定のFOMCで3回連続して0.75%の利上げに踏み切る確率は13日時点で65%。1%の利上げを見込む割合も35%に達している。ちなみにパウエル議長がジャクソンホール会議で講演した8月26日には0.75%の利上げ確率が61%、1%利上げはゼロだった。


パウエル議長(Getty Images)

9分足らずと異例の短時間だった同議長の講演には、金融緩和を期待する「ハト」の入り込む余地がいっさいなかった。多くの市場参加者は、インフレ退治へ向けて利上げのアクセルを踏み込むことも辞さないという金融当局の強い意志を感じ取った格好だ。

米国では11月に中間選挙を控えるが、市場関係者のもっぱらの関心はインフレの行方。「このタイミングでは珍しいほど、選挙の話題が出ない」とニューヨーク駐在の日系証券の米国株担当者は語る。米労働省が13日に発表した8月の消費者物価指数は前年同月比8.3%の上昇。2カ月連続で伸び率は縮小したが、市場予想(8.0%)を上回った。これを受けて、次回FOMC会合での1%利上げのシナリオが急浮上している。

一方、「円安」をもたらしている要因は何か。FRBだけでなく欧州中央銀行(ECB)や英国、カナダ、韓国など世界各国・地域の中央銀行が利上げへ傾斜するなかで、日本銀行が金融緩和姿勢を貫いていることだ。

米ブルームバーグ通信も、ジャクソンホール会議に参加した日銀の黒田東彦総裁が「賃金と物価が安定的かつ持続的に上昇するまでは、金融緩和を継続する以外に選択肢はない」と発言したと伝えている。

円安阻止を狙った日本の円買い介入実施の可能性も取りざたされるが、市場関係者には「各国との協調でなく日本単独であれば効果は限定的」との見方が少なくない。しかしながら、各国に協調介入を要請すれば、「(円安は)日銀の金融緩和が理由だろうと突き放されてしまうだけ」(岡三証券投資情報部の武部力也シニアストラテジスト)という側面もある。
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文=松崎泰弘

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