WOWOWが共同開発 メタバース演劇「Typeman」がヴェネチアで快挙


どちらの作品も、数千規模の応募作品の中からヴェネチア国際映画祭のXR部門(部門名は今年度にVR部門からXR部門に改称)で3年連続ノミネートを果たしており、演劇型の「Typeman」はこれらに続くもの。今回本命であったXR部門の受賞は逃したものの、イタリアの独立系映画評論家が独自に選出する金鰻賞で最優秀短編賞を受賞する結果を残しました。

ヴェネチアの現地でも、「Typeman」は大きな評判を呼びました。9月9日の授賞式で、審査員は「忘れ去られた過去の存在をロマンチックに演出し、機械式タイプライターのキーから文学を生み出したチャレンジングな試みは注目を集めた」と評価コメントを発表しています。


ヴェネチア国際映画祭会場(WOWOW提供)

演者と鑑賞者がメタバース空間で共通体験


「Typeman」は、メタバース空間で演者がリアルタイムに実演するVR演劇です。演者と体験者は同じバーチャルワールドに入り、コミュニケーションを取りながらストーリーを進めていくスタイル。VRヘッドセットを被るだけで参加者は物語の世界へ没入でき、目の前で演者のパフォーマンスを鑑賞することができます。同時にダイバーシティを意識した演出も施されています。


演技中の振付師YAMATO@東京・辰巳にあるWOWOW放送センター(WOWOW提供)

筆者も「Typeman」を体験した1人です。タイプライターを擬人化したTypemanを演じた振付師YAMATOのパントマイムは感情豊かで、Typemanの孤独が深く表現されていました。メタバースという特別な空間で体験を共有することによって、他の参加者ともその感情を共有できたように感じました。

約25分にわたる演劇を締めくくるラストには、鑑賞者を前向きな気持ちに変えさせてくれるメッセージが込められています。それは「『孤独』が現代社会で大きな問題となっているなかで、Typemanと共に喜びや悲しみ、戸惑いなどさまざまな感情を共有することで、孤独感を吹き飛ばしてもらいたい。人とのつながりを再認識してもらいたい。そう願ってこの作品を制作した」という、伊東ケイスケ監督の狙いがシンプルに伝わってくるものでした。


「Typeman」(c)WOWOW × CinemaLeap

このVR演劇「Typeman」は、エンターテインメント業界に携わる独立系の日本のクリエイターたちを積極的に起用している作品でもあります。伊東ケイスケ監督をはじめ、Typemanを演じた振付師YAMATO、YAMATOと交代でTypemanを演じたVRダンサーのYOIKAMIなど、メタバース上を主体に活動している面々も含まれています。


Premio bisato d’oro 2022最優秀短編賞受賞、伊東ケイスケ監督(右から2番目)(WOWOW提供)
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文=長谷川朋子

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