日本武道館で行われたピコ太郎の初ライブや、外国特派員協会で行われたふなっしーの記者会見で通訳を担当したことでも有名だが、実は彼女の主戦場は経営会議や商談などビジネスの場だ。
通訳者というと、言葉に抑揚を付けず一言一句、訳していくというイメージを持つが、彼女の代名詞は「感情まで訳す通訳者」。
ただ単純にボディランゲージや情感のこもった言葉を伝えるのではない。ここぞという場面で、聴き手が「自分事」として捉えられるように言葉を届けることで、話し手の想いを伝えるという。その手法とはどのようなものか、橋本に聞く。
オピニオンのない言葉は刺さらない
──橋本さんは、「感情まで訳す通訳者」として有名です。
人間の「伝える」という行為の裏には、相手に何かアクションを起こして欲しいという思いがあります。行動を促すためには、相手の心に響く表現をしたほうが効果的。だから私は話し手の感情まで伝わるような通訳を目指しています。
重要なのはF(Fact=ファクト)とO(Opinion=オピニオン)の割合です。日本人の場合は特にストーリーテリングが苦手だと言われていて、Fばかりを並べてしまいがち。例えば企業のトップが社内向けにメッセージを発する時、事前に資料を読めばわかるような話ばかり聴かされても社員は飽きてしまう。Oがないから言葉が刺さらないんです。
「今期は売り上げがいくらで、利益が何パーセント上昇しました」ではなく、そのFactに対してトップがどういう想いを持っているのか。社員の心を捉えるのはリーダーのOpinionです。
──そこを橋本さんがサポートしていくんですね。
そうです。例えば、金融業界で景気や投資、ESGなどのテーマを通訳することがありますが、この領域は専門的で情報量が多いので、どうしても単調な説明が続いてしまいます。しかし金融のプロたちの話を聴いていると、テクニカルな話をしながらも、彼らがそこに深い哲学と情熱をもって想いを語っていることが分かります。
そこで、話にメリハリが出るように声のトーンで起承転結を示したり、Factだけでなくこんな面白いOpinionも言っているんだと、聴き手に伝わる言葉を選びながら、わかりやすくストーリーを伝えていくわけです。