アップルが発表会映像を用意しながらも「リアルイベント」にこだわる理由

2022年9月のiPhone・Apple Watch発表はオンラインとリアルのハイブリッドで開催された


会場は自前なので問題にならないが、人の移動やスタッフの手配など、オンライン開催に比べれば途方もないコストを支払って成立しているからだ。

それでも、アップルはリアルイベントにこだわった。その理由について、長年アップルのプレスイベントのステージに立ってきた人物との立ち話から紐解くことができる。

フィル・シラーの第一声


「今回のWWDC、どうだった?」

2022年6月に開催されたWWDC2022でお披露目となった新型MacBook Air。プレス向けにはSteve Jobs Theaterのロビーでハンズオンが行われた。シアターの活用方法としては少し変則的な部類に入るが、正円で地階のハンズオンエリアと同じサイズのスペースは、必要にして十分な場所だった。

シアターの入口で、筆者の顔を見て声をかけてみた人物こそ、長年製品をステージで発表する役割を果たしてきた、元ワールドワイドマーケティング担当シニアバイスプレジデントで現在アップルフェローを務めるフィル・シラーだった。何気なく問いかけられた素朴な質問の裏に、不安と期待が入り乱れた表情が印象的だった。



シラーはもともとアップルの製品マーケティングのトップを務め、製品発表会の顔として長年にわたって顧客との関係づくりに尽力してきた人物だった。現在、イベントのディレクターのような立ち回りも務め、ホスピタリティあふれるシラーが、リアルイベントの成否を気にするのは当然だ。

それ以上に、アップルのビジネスそのものにも関わる、重要な意味合いがある。

WWDCは開発者との直接対話の場、製品発表は消費者との対話の場


アップルにとって、世界開発者会議、World Wide Developers Conference(WWDC)は、開発者との貴重なコミュニケーションの場だ。新型コロナウイルスのパンデミックの影響で2年間はバーチャル開催、つまりオンラインでセッションを配信したり、デジタルラウンジを通じた交流の場を用意するなど、オンラインに移行した。

2022年6月のWWDCでもバーチャル開催は維持されたが、一部の開発者を本社がある巨大なApple Parkに招いた。一般の人を本社に招き入れること自体が異例のことで、プレスも含めた1000人規模のパブリックビューイング形式を採った点が新しかった。

アップルが開発者との良好な関係を作り、喜ばせようとすることこそ、シラーが考えていた「顧客」との関係づくりの1つだったのではないだろうか。そして表情や完成、拍手などのイベント中でのフィードバック、熱量を感じることを、シラーは重視していた。

同じことが、iPhoneの製品発表イベントにもいえる。WWDCが開発者との対話の場なら、iPhoneの発表会はプレスとその情報を読む消費者の反応を見る、大切なコミュニケーションの場になっているのだ。会場はどこで沸き、どこのメッセージに反応が薄かったのか。何が一番喜ばれたのか、意外性があったのか。
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編集=安井克至

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