化石燃料による大気汚染が非喫煙者の肺がん発生を加速させる可能性

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自動車の排ガスやその他の化石燃料の煙による大気汚染は、非喫煙者の肺がんリスクを高める可能性があることが、欧州臨床腫瘍学会で10日発表された。気候変動が人間の健康に与える影響に関する新たな知見だ。

英フランシスクリック研究所と英ロンドン大学の研究者たちは、2.5マイクロメートルの粒子状物質の増加が肺がんと関連づけられることが多いEGFR変異とKRAS変異という一連の変異を重ねた気道細胞の「急速な変化」を引き起こし「がん幹細胞様の状態」へとつながることを発見した。

英国、韓国、台湾の46万人以上のデータを分析したこの研究によると、これらの変異は正常な肺組織の18~33%に認められたが、大気汚染にさらされた肺では「より早く」がんが発生した。

この研究は工場や自動車、その他の内燃機関から排出される化石燃料の排ガスが気温の上昇だけでなく死亡率、慢性疾患、呼吸器疾患、精神衛生など健康状態の悪化につながるという多くの報告に続くものだ。

研究の主席研究員で英国がん研究所の主任臨床医チャールズ・スワントンは、気候変動を悪化させているものと「同じ大気中の粒子」が「これまで見過ごされてきた肺細胞の発がんメカニズム」の原因でもあることが研究で明らかになったと述べた。

1年前には世界保健機構が「数百万人の命を救う」ためにオゾン、二酸化窒素、二酸化硫黄、一酸化炭素を含む大気汚染の減少が必要だと報告書で警告を発した。

英医学誌『ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル』に掲載されたレポートによると、世界中で毎年120万人が肺がんで死亡しており、その大半は喫煙が原因だ。そして割合的には少ないながら大気汚染も一因だ。

2002年の米がん協会の研究では、微粒子や硫黄酸化物関連の汚染が1立方メートルあたり10マイクログラム増加するごとに肺がんのリスクがおよそ8%増加することがわかっている。

2018年の全米気候評価報告書によると、米国では約1億人が大気質基準を上回る大気汚染がある地域に住んでおり、地球が温暖化し続けることでそうした状況は悪化し、呼吸器や循環器への悪影響を引き起こす可能性が高いことも明らかになっている。世界保健機関は気候変動による栄養失調、マラリア、下痢、熱ストレスによって、2030〜2050年に年およそ25万人が死亡すると予想している。

今回の研究は、空気の質が悪い地域に住む人々の肺の前がん病変をターゲットにした予防策につながるだろうか。研究者たちはインターロイキン阻害薬と呼ばれる免疫抑制剤の効果を分析し、肺がんの発生を予防する可能性があることを発見した。

forbes.com 原文

翻訳=溝口慈子

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