それができる会社を探しているなかで、パナソニックと出会った。パナソニックは家電大手として日本では有名企業だが、シリコンバレーでそれほど名前が知られているわけではない。「みんなの生活をよくする、そのための技術を開発するという会社の理念にすごく共感しました。会社に入って、何ができるかを考えているときに、コロナが起きました」。
なりたい自分になれない──。それは、松岡自身の課題でもあった。5歳から16歳まで4人の子どもの母でもある松岡。5年前の取材で、4人それぞれの学校、お稽古事の送り迎えなどの予定がびっしりつまったスケジュール表を見せてもらった。当時も「(仕事と家庭は)なんとかバランスをとっている」という話を聞いたが、コロナ禍で、その危ういバランスは危機的状況になったという。
子どもは学校にもお稽古にも行けず、自分もリモートワーク。会議の合間にトイレに行こうとして、子どもに話しかけられても、相手ができない。やりたかった仕事も断らざるを得ない状況になった。「これまでもあった課題がさらに顕在化したんです」
Yohanaはどうやって使うの? そう聞かれた時にいつも話すのが娘の誕生日パーティーのエピソードだ。もうすぐ16歳になる長女のためにYohanaを使って誕生日パーティーを手配した。スペシャリストのアイデアを入れて、お揃いのパジャマや自分たちでつくるピザ、アイススタンドの演出に、娘も友だちも大喜びだった。
「良かったのは、私も一緒に座って笑っていられたこと。余裕をもって、自分らしくいられたんです」
愛する家族の前で、笑っていられること。そんな一見小さなことが、もっとも「好きな自分」だったりするのだ。
松岡陽子◎1972年、東京生まれ。16歳のとき、プロテニスプレイヤーを目指して渡米。Google、Apple、Nestを経て2021年、米シリコンバレーにてパナソニックが全額出資する子会社Yohanaを設立。CEOを務める。