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2022.09.09

31年間で平均19%のリターンを出すヘッジファンド王者が予見する未来

テクノロジーを駆使し、時代を先取りしてきた米投資大手「Citadel(シタデル)」。その創業者が考えるウクライナ侵攻によるドミノ効果と、組織の在りかたとは。


先見性と数学、テクノロジーを駆使し、ケン・グリフィンはシタデルを世界屈指の資産運用会社に育て上げた。その彼が近年、ニュースを賑わしているのは時代の必然なのかもしれない。メディアに滅多に出ない彼が、ゲームストック株騒動や、「DAO(分散型自律組織)」に競り勝ったサザビーズでの競売、そして、ロシアによるウクライナ侵攻が世界経済に及ぼすリスクについて余すことなく語った。

ケン・グリフィン(53)は、米ニューヨーク市マンハッタンにあるオフィスビルの10階の窓から憂いを帯びた面もちで外を眺めていた。ここは彼が率い、シカゴに本社を構える470億ドルのヘッジファンド「Citadel(シタデル)」が市内に構える3つのオフィスのうちの一つだ。時は3月初旬。ウクライナへの攻撃が行き詰まっていた露ウラジーミル・プーチン大統領は、核攻撃をほのめかすようになっていた。グリフィンの見通しでは、キノコ雲が立ち昇る気配はないが、今後の展望は憂慮すべきものだ。

「私の世代は、相互確証破壊(2つの国が核兵器を保有し合うことによる核戦争抑止理論)の時代に育ちました」と、グリフィンは話す。

「『机の下に隠れて核爆発の衝撃に備えろ』とよく言われましたよ。我々があの時代の言葉遣いに戻っているのは、かなり大きな後退です」

S&P500は年初来12%下落。欧州株とナスダックに至っては18%近く下がっており、原油価格は急騰している。北大西洋条約機構(NATO)の加盟各国は、ロシアが人類の存続への脅威となるという事実に再び目覚めるなか、グリフィンは各国の再軍備の恩恵を明らかに受ける株として、防衛株とエネルギー株を挙げており、どちらもすでに、以前より高い水準の価格で取引されている。

だが、これは状況を短期的に見た場合の話だ。長期的に見ると、グリフィンは“ブラックスワン(黒い白鳥)”の群れ、つまりいくつもの衝撃の大きい予測不能な事態が迫っていると考えている。ロシアが科されている制裁の厳しさと性質は、ドルが基軸通貨になっている世界の金融システムに長期にわたる影響を及ぼすと予測。ロシアが資本市場にアクセスできないようにするために西側各国が取っている行動は、「ドルの武器化」の先触れだと語る。

ロシアや中国をはじめとする国々が、ドル離れを進めて基軸通貨を多様化させざるを得ないと考えるようになり、深刻な余波が生じるというのだ。中国、ロシア、イランそしてブラジルが形成する貿易圏による基軸通貨の非ドル化という事態は、容易に米国の企業や投資家が急成長市場から排除される事態に変貌し得る。グリフィンはこう問いかける。

「我々は、米国が技術的優位を誇る時代の終焉に向かわせる種をまいてしまったのでしょうか?」

彼の言葉には耳を傾けるだけの価値がある。常に大局的な観点に立ってきた人物で、ウォール街ではほぼ並ぶものがいない運用実績を誇っているからだ。過去31年間の運用で減益になったのはわずか2年であり、年間平均リターンは19%である。好成績をもたらしてきたのは、グリフィンのマクロトレンドに対する緻密な観察眼と、彼の世界金融の支柱の一つにおけるユニークかつ強力な立場だ。
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文=マニート・アフジャ & クリス・ヘルマン 写真=アーロン・コタウスキー 翻訳=木村理恵 編集=フォーブス ジャパン編集部

この記事は 「Forbes JAPAN No.095 2022年月7号(2022/5/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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