マネーパートナーズ チーフアナリスト・武市佳史氏
日米金融当局の立ち位置の違いは鮮明だが、それはエネルギー、食糧の高騰の影響だけではない。貿易赤字の拡大も大きく寄与している。これに投機的な動きが加わったことが、今回の急激な円安につながった印象が強い。このため過熱感を除けば、ドル売り介入でも実施されない限り、なかなか止まらない可能性は高そうだ。
過度な円安局面では、値上げなどのデメリットばかりが取りざたされがちだ。ただし日本は世界最大の純債権国であり、企業や政府などが海外に所有する外貨建て資産は増大している。また海外からの直接投資についても、円安が促す可能性は高まりやすい。
デメリットばかりというわけではないが、ただ問題はその恩恵が一部企業や投資家に限られるという点だ。このため感情的な批判につながりやすく「悪い円安」とのイメージばかりが膨らみがちになる。そうならないために、現在の円安に沿った「家計/資産の組み換え(防衛策)」について、各々がこれまで以上に真剣に検討する必要が求められよう。
コモンズ投信代表取締役社長・伊井哲朗氏
昨日は、ドル円で144.99円と1998年8月以来の高値をつけた。7月から8月中旬までの金融市場は米国のリセッションを意識し来年の利下げを織り込んでいた。株式市場も急ピッチで戻り始め、ドルも少し弱含む展開だった。
しかし8月25日〜27日のジャクソンホールの経済政策シンポジウムで、FRB(米連邦準備制度理事会)のパウエル議長が「物価の安定は、FRBの責務であり、家計や企業が痛みを伴ったとしてもインフレが抑制されるまで金融引き締めは続ける」と強い姿勢を示したことから、金融市場は反転し、ドル円は急速に強くなり始めた。
その後も、高官から来年の利下げをけん制する発言が相次いでいる。ただし、足元のこの為替の動きはオーバーシュート気味に思っている。反転するタイミングもそんなに遠くないのではないか。
円安には悪い円安も、良い円安も両面ある。例えば10年前の今頃は、ドル円は75円と超円高。日本はその頃「6重苦」と言われ、今よりも深刻だった。6重苦とは、円高、過剰な雇用規制、高い法人税、環境規制の強化、自由貿易協定の遅れ、電力供給の不安。この為替での弱みをカバーし、インバウンドや、企業、工場の国内誘致など、メリットを生かすべきだ。