宇宙、自然、音楽。恋愛小説「ボイジャーに伝えて」が描く死から生への転換


地球の音を詰め込んだ1枚のディスク(ボイジャー・レコード)の縁が取り持つ男女のファースト・コンタクトの物語は、公平と恭子のたどる心の軌跡を追いながら、恋愛感情とは逆方向にある、相手を自分の犠牲にしない関係とは何かを探る物語として昇華されていく。

実はそれは生と死のボーダーラインを行く旅でもあり、気がつくと、主人公らと共に死の深淵を覗き込む自分に気づき、唖然とする読者も多いだろう。

しかし死の世界に触れながら、作者・駒沢敏器のメッセージは少しもネガティブではない。死を大きな宇宙として捉え、命の根源として親密に取り込むことが、芸術や生の活力につながっていく。そんな発想の転換を現代人に促す物語となっているのだ。

古代のわが国には、生の終わりは人生の敗北ではないとする死生観があったという。しかし、節操のない開発でコンクリートに足元を塗り固められ、本来それを伝えてくれる筈の自然に日本人が耳を貸さなくなって久しい。

この「ボイジャーに伝えて」は、そんな現状を憂う21世紀のわれわれにもたらされた、妙なる福音なのかもしれない。


「ボイジャーに伝えて」駒沢敏器 風鯨社刊

連載:ウィークエンド読書、この一冊!
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文=三橋 曉

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