ジェフ・ブリッジスが演じる主人公は、実際のボイジャー号に積まれているというレコード(地球外生命体に宛てた、鯨の鳴き声や波の音からバッハやチャック・ベリーまで、地球と人類を紹介する画像や音源を収録したディスク)のメッセージを受け取り、地球にやってきた異星人だが、友好的とは言い難い合衆国政府の対応に戸惑い、やむなく寡婦のカレン・アレンを誘拐同然に連れ回す。しかし、やがて彼らの間には不思議な感情が芽生えていく。
「ボイジャーに伝えて」の2人の縁にも、そのレコードが介在する。公平の演奏は恭子にボイジャー・レコードを連想させ、同い歳の2人の間には、ボイジャー号が発射された日付けをめぐる偶然もあった。いまなお航行を続ける宇宙探索船が、彼らの知らないところで、公平と恭子を結びつけていたのだ。
ボイジャーの任務になぞらえるように、恭子のいる東京から遠ざかりながら、日本列島を北上していく公平の旅は、読者にとっても驚きに満ちた発見の旅として描かれていく。アウトドアに精通し、紀行文学の著作も多い作者の駒沢敏器だが、ネイチャー・ライターとしての本領を存分に発揮している。
彼が行く先々で収集した川のせせらぎや風の囁きの音像は、時にその地に暮らす地元の人々の心をも揺さぶってみせる。自然の風景に宿る何かを追い求める公平の旅は、失われつつある四季豊かな日本の原風景をたどる旅といってもいい。しかしそれは、単なる郷愁とは異なり、豊かな自然への慈しみだけでなく、それが失われていく現状になす術もない自身への苛立ちも孕んでいる。
公平の再発見の旅は、やがて日本の南端にあたる沖縄へと舞台を移していく。沖縄といえば、生前の作者が傾倒していた土地だが、本島北部に位置し、手付かずの自然を残す「やんばる(山原)」の奥地に踏み入り、営みを始めた公平は、その地に魅入られていく。
しかし、懐深い大きな自然に抱かれ、そこで体験する数々の出来事は、主人公ばかりか読者をも幻想の森へと引き摺り込んでいくのである。
生と死のボーダーラインに
ボイジャーの旅が象徴するものが、もうひとつある。それは公平の来し方である。出立を打ち明ける彼が、新たな拠り所となった恭子にさらに告げるひと言が、さりげなくそれを物語る。「これで僕にも、帰る場所が見つかったかな」。公平には、生まれ育った、愛着も深い地元の街を、わずか十代で捨てざるをえない事情があったのである。
多くの人には、帰る場所がある。「スターマン」の異星人も、やがて生まれ故郷の星へと帰っていかざるをえなかったように。しかし、旅立つ公平の後ろ姿を見送った恭子は、漠とした不安に駆られる。彼は果たしてわたしのもとに帰ってくるのだろうか、と。
ほどなく物語は、彼女に不穏な気持ちを抱かせた公平の過去についても回想を始める。10年という時を隔てて、現在のはざまに過去が交互に語られていくが、公平が恭子と出会ったことで、いままた封印を解かれたカタストロフィーが、彼をその場所に引き戻そうとする。