そして、鈴来氏が注目するのが、「北朝鮮軍兵士」の派遣だ。米国防総省は8月8日、ロシア軍の死傷者は7万~8万人に達したとの見方を示した。ロシアは従来、世論の反発を懸念して、遠隔地域や、手厚い政府補助金を出している少数民族が住む自治共和国などを中心に部隊を派遣している。プーチン大統領が砲弾を補充するなどし、戦闘の長期化を覚悟しているのであれば、兵員の補充も同じように課題に上ってくる。
北朝鮮は7月13日、ウクライナの親ロシア派勢力が自称するドネツクとルハンスクの両「人民共和国」を承認した。すでに、親ロシア派勢力は、破壊されたインフラの再建のために、北朝鮮労働者を受け入れる準備が進んでいるとの事実を明らかにしている。そして脱北した朝鮮労働党の元幹部によれば、北朝鮮が派遣を検討しているのは社会安全省(一般警察)に所属する第7総局と第8総局の人員だという。いずれも、「社会安全軍(旧・朝鮮人民内務軍)」と呼ばれる、建設作業や治安維持などの能力を持つ準軍事組織だ。元幹部は「ウクライナで戦闘が続いていることを考慮し、戦闘能力も兼ね備えた建設作業要員として派遣が検討されているそうだ」と語る。
もちろん、北朝鮮の準軍事組織をロシア軍に編入するためには、いくつものハードルがある。そもそも、言葉が違うから、コミュニケーションが取れず、戦術をすぐに理解できないだろう。ただ、ロシア軍を前線に集中させる際、後方地域の治安維持や補給などの任務にあたらせることはできるかもしれない。北朝鮮もロシアも、ドネツクとルハンスクの両「人民共和国」は国連未加盟だから、本来なら国連制裁決議違反となる、北朝鮮による海外への武器弾薬の輸出や労働者の派遣も可能だと強弁している。
ウクライナのゼレンスキー大統領は9月5日に放映された米ABCとのインタビューで、ロシアが占拠している地域について「(南部)ヘルソン州だけではなく、全ての方面で(奪還する作戦を)展開している」と述べた。ロシア軍の苦戦が事実であれば、砲弾だけではなく兵士もつぎ込んでいく展開になるのかもしれない。北朝鮮の兵士がウクライナに送られる可能性もないとは言えない。
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