北朝鮮はロシアに何を売る 大砲か、それとも兵士か

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米国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官は9月6日、ロシアが北朝鮮に対し、弾薬の調達を申し入れた事実を明らかにした。カービー氏によれば、ロシアが購入を希望する弾薬の規模は、数百万発にのぼる可能性があるという。一体、ロシアは北朝鮮から何を買い付けるつもりなのか。

韓国で防衛駐在官を務めた鈴来洋志・偕行社安全保障研究員(元陸将補)は「りゅう弾やロケット弾を買い付けるつもりではないでしょうか」と語る。りゅう弾もロケット弾も曲射弾道兵器の一種で、ロケット弾は弾に推進剤が入っている。2S19「ムスタ-S」152ミリ自走榴弾砲の最大射程は通常弾の場合24.7キロで、BM-21「グラード」122ミリ多連装ロケット弾は射程約15キロ。数多くの弾を発射してピンポイントではなく、面で制圧するため、多くの弾薬が必要になる。主に敵の兵士の殺傷や施設の破壊に使う。

南北軍事境界線に近い北朝鮮側地域には約1000門の長距離砲が配備されている。韓国軍当局によれば、このうち射程距離が54キロの170ミリ自走砲6個大隊と射程距離60キロの240ミリ放射砲(多連装ロケット)10個大隊330門がソウルと首都圏を射程圏内としている。鈴来氏は「北朝鮮軍の榴弾砲は、自衛隊や米軍の使っている口径とは異なりますが、ロシア軍はと同じ口径を使っています。北朝鮮軍はもともと、ロシア軍の装備兵器の提供を受けていましたから、古い兵器であればあるほど、適合性が高いと言えます」と指摘する。

一方、どこの軍隊も、持っている弾の数が、戦争を続ける能力(継戦能力)につながるため、保有弾数は秘密にしている。ただ、ロシアは2月から始まったウクライナ侵攻で、最も激しい時期では1日あたり、4万発から6万発の砲弾を使い、半年間で700万発の砲弾を消耗したとされる。カービー氏の発言が事実なら、ロシア軍は半年程度の激しい戦闘を展開できる量の砲弾を買い求めようとしているのかもしれない。

それにしても、そんな大量の砲弾を北朝鮮は持っているのだろうか。鈴来氏によれば、韓国では「数千万発に及ぶ」と推計する民間の研究者もいるという。鈴来氏は「とてつもなく多い数字ですが、北朝鮮ならありうると思います」と語る。米国務省が世界各国の国防費を調べた資料によれば、北朝鮮は2009年から2019年まで毎年、国内総生産額(GDP)の21.9%から26.4%を国防費に投入してきた。北朝鮮は中東やアフリカ、東南アジアなどに弾道ミサイルから小銃まで、あらゆる武器を販売してきた実績もある。鈴来氏は「北朝鮮も自国の軍事態勢を維持したうえで、予備の弾薬などを支援するのでしょう。弾道ミサイルは数も限られているので、やはり、りゅう弾やロケット弾が中心になると思います」と話す。
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文=牧野愛博

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