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2022.09.09 10:00

視線だけで音楽を奏でる 難病ALSのアーティストとライブパフォーマンスで魅了

ALSと闘うアーティストたちが、視線入力でライブパフォーマンスをした

ALSと闘うアーティストたちが、視線入力でライブパフォーマンスをした

例年、フランス、カンヌで行われている世界最大のクリエイティビティの祭典「Cannes Lions International Festival of Creativity」。

今年は、史上最年少でノーベル平和賞を受賞したマララ・ユスフザイさんやウクライナのゼレンスキー大統領も登壇し、世界的なニュースとなりました。

そして、恐れ多くも、私はそのメインステージでスピーチとライブパフォーマンスをしました。ALSという難病と闘いながら活動を続けるアーティストの武藤将胤さん、Poneさんというパートナーとともに。

結果的に、世界で初めて、東京、カンヌ、ガヤック(フランス南部の町)の3都市をつなぎ、視線入力によって音楽を演奏する実験的なライブパフォーマンスに成功しました。



話が来たのは、今年の2月。私はこれまでにパラスポーツやパラリンピック開会式の仕事をしてきたので、その経歴を踏まえて「なにか世界に発信できることはないか」という依頼でした。

パラ開会式で目指した「健常者と障がい者の境界を取り払った世界」は、イベントの時だけでなく、日常の中でこそ実現されるべきであり、そのために活動を継続したいと思っていたので、即答で「ぜひ」と返事をしました。そして、同時にただ言葉で伝えるのではなく、デモンストレーションで実証したいとも思ったのです。

ALSと闘う2人だからこその視点と気づき


みなさんはALSという病気をご存知でしょうか。2014年に話題になったアイス・バケツ・チャレンジでその名前を知っている人が多いかもしれません。

ALSとは、筋萎縮性側索硬化症のことで、体を動かす運動神経が老化し、徐々に動かなくなっていく難病です。筋力の低下を引き起こすものの、意識や五感、知能の働きは正常のまま。発症してからの平均余命は3~5年と言われ、世界で35万人、日本には約1万人の患者がいます。現在、治癒のための有効な治療法は確立されていません。

私が今回のパフォーマンスのパートナーとして希望した2人には、共通点があります。ひとつは、ALSという難病と闘いながらも精力的に音楽活動を続け、活躍していること。

そして、2つ目は、2021年の東京パラリンピックにおいて、武藤さんは開会式、Poneさんは閉会式でパフォーマーとして参加をしていたこと。その時はすれ違いになってしまい、ふたりともお互いを認識しているものの、いつか共演したいと思っていたそうです。


MASA/武藤将胤
EYE VDJ/コミュニケーション・クリエイター/WITH ALS代表理事。元広告代理店のプランナー。2013年にALSを発症。EYE VDJ MASAのアーティスト名でアイトラッキングでの楽曲制作やDJ/VJのライブパフォーマンスなどの音楽活動を行う一方、ALSの認知と患者支援を目的とした組織「WITH ALS」を立ち上げる。東京パラリンピック開会式では布袋寅泰さんが乗るデコトラの運転席で演技。


PONE(Guilhem Gallart)
コンポーザー、73 Beats所属。フランスの伝説的なヒップホップバンド「Fonky Familiy」の元メンバー。2015年にALSを発症。アイトラッキングを用いて作曲家として活動する。19年には目だけで制作したフルアルバムを作曲し、再び音楽界で脚光を浴びている。東京パラリンピック閉会式「フラッグハンドオーバーセレモニー」では、音楽パフォーマンスを担当。
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文=田中直基

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