視線だけで音楽を奏でる 難病ALSのアーティストとライブパフォーマンスで魅了

ALSと闘うアーティストたちが、視線入力でライブパフォーマンスをした


3分を超えるスタンディングオベーション


これらの新たに開発した楽器を引っ提げて、私たちはカンヌのステージに挑みました。せっかく南仏の地中海にいるのに、ずっと会議室でテストとアップデートの繰り返しでしたが(笑)。

観客の誰もが初めて見るライブパフォーマンス。会場の緊張はどんどん興奮に変わっていきました。



結果はまさかのスタンディングオベーション。なんと3分を超える長さで、会場のスタッフから「まじで感動したよ。今回のカンヌで一番長いスタンディングオベーションだよ」と言われました。

全員泣いていました。私も武藤さんも会場のお客さんも。国境も人種も言語も超えて、想いが届いたことを実感しました。パフォーマンス終了後、いろんな国の人から「一緒に仕事しようぜ」とか、「本当に感動したと」といった声をかけていただきました。

世界には、まだクリエイティビティの山が眠っている


帰国後、国内外のお身体に障がいを持つ方やそのご家族からたくさん連絡をもらいました。ひとつは、ALSと似たSMAという難病を抱える小学4年生の息子さんを持つお母さんからです。

「カンヌのライブパフォーマンスをニュースで見て感動しました」「息子は音楽にすごい興味があって、音楽クラブに入りたいと言っています。普段はガレージバンドを使って作曲しているのですが、やはりライブでの演奏を友達と一緒にやりたいって言ってて。」「皆さんの力で息子に音楽をやらせていただけませんか?」──そんな内容でした。

僕は「ぜひ協力させてください!」とすぐにお答えしました。音楽発表会は年末です。楽しみです。

なお、SMAとは、脊髄性筋萎縮症(spinal muscular atrophy:)のことで、脊髄の運動神経細胞(脊髄前角細胞)の病変によって起こる神経原性の筋萎縮症で、筋萎縮性側索硬化症(ALS)と同じ運動ニューロン病の範疇に入る病気です。体幹や四肢の筋力低下、筋萎縮を進行性に示します。

すべての人をプレイヤーに


カンヌのステージで、私はこう締めくくりました。

「私たちは、武藤さんとPoneさんの視点とクリエイティビティを借りることで、今回の演奏ツールをつくることができました。ALL PLAYERS WELCOME. すべての人をプレイヤーに」

これは、こう言いかえられます。いろんなバックグラウンドを持った人の視点や気づきは、これからの世界をもっと良くするための宝物です。今回の演奏ツールも、武藤さんとPoneさんの視点と気づきが開発のきっかけになっています。


たくさんの協業チームとともに実現しました。この場を借りて改めて感謝申し上げます

思えば100年前まで、女性はスポーツでも政治でもメインプレイヤーじゃなかった。たった100年前の話です。女性プレイヤーが増えたことで世界は前進しました。

世界はまだまだアップデートできる。そのためには、ジェンダー、経済格差、生まれた環境、身体性……そんなことが理由でプレイヤーになれない人のいる世界を早く終わらせることが重要です。彼らが本当の意味でプレイヤーになったとき、世界はさらに前進します。

私たちのプロジェクトは、はじまったばかりです。

※今回制作した演奏ツールは「All PayersTool Lab」に格納してあり、無償で誰でも自由にダウンロードして使えるようになっています。

〈スタッフリスト〉
Ableton KK / BASSDRUM / coton / CUBE / Dentsu Creative Cube / Dentsu ScienceJam / invisi / Life hack / Momonga / NTT / PICS / SLOW LABEL / with ALS / woo / WOW / y’s connection

文=田中直基

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