「それでクライアントには、手持ちのクルマで最も売れそうなものの値段を少し下げ、広告の目玉商品にしてもらうんです。そうすると、売れるんですよ。だって、人気なのにおトクだから。提案して売れたら、また次も、ということになるわけです」
広告を出してもらうのではなく、クライアントの持つクルマをいかに売るかを考えたのです。そもそもクライアントの広告の目的はクルマを売ることなのです。これが、リクルートの新しい価値を創造する表彰制度で全社表彰を受けます。
30年後はどうなっていると思うか
出木場さんは、入社6年目、本社に戻りました。配属先は旅行専門雑誌の「じゃらん」。当時は、紙メディアからネットへのシフトが急速に求められていました。委ねられたのは、それをいかに軌道に乗せるか。
しかし、「じゃらん」は紙メディアでの広告ビジネスに大成功していました。ネットへのシフトは、決してスムーズには進んでおらず、成功体験を積んだ社内の意識を変えるのは、簡単なことではありませんでした。
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「いろいろ言われましたね。『新しく来た、分かってないヤツに言われたくない』とか『松葉ガニと平家ガニの違いも知らないヤツにじゃらんはやれない』とか。
でも、僕は言い返していましたから、結構偉い人にも(笑)『そんなものは知らないし、興味もないし、分かっていればインターネットビジネスがうまくいくわけではない』と。そういうことじゃないじゃないですか。どっちが便利で、どっちが世の中に求められているかです」
未来はどうなのかを出木場さんは社内に説いていきます。後に、「じゃらんnet」は日本最大級の宿泊予約サイトとなります。
「話せば分かってくれる、という確信が僕にはあります。ホットペッパービューティのポイント予約も僕が言い出しっぺですが、異動して真っ先に部下に言われたのは、『じゃらんnetの予約でうまくいったかもしれませんが、美容室は違いますから』でした。『PCが美容室にあるのは約3割。オンライン予約ができるのは約3割だけ。予約管理なんかできない』と」
出木場さんは、このときも説きました。では、30年後はどうなっていると思うか。相変わらず電話で予約を取るのか。では、10年後はどうか。5年後はどうなのか。
「どの美容室もPCをそろえ、競合が出そろい、『じゃあリクルートも進出するか』なんてのは、格好悪過ぎるわけです。ホットペッパービューティーがこの世界で一番を貫きたいなら、真っ先に未来を切り開かないと。待ちの姿勢ではなく、オレたちが新しい価値をつくるんだ、ネット予約できるような便利な社会にするんだ、というのが本来の仕事だろう、と」
しかし今では、そんな出来事があったなど誰も知らないほど、ネットでの予約は当たり前になっているのです。