神経科学者による音楽科学の研究もより「多様性」あるものに

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人間の脳が音楽をどのように知覚しているかに関する研究は、伝統的に西洋音楽とそれを聞く人たちに対象が絞られてきた。しかし研究者たちは、これを変える必要があり、あらゆる音楽とあらゆる音楽リスナーを含めるよう音楽神経科学を多様化すべきであることを認識しつつある。

数カ月前に私は、過去数十年間に音楽の神経科学について研究者が何を学んだかをまとめた研究について書いた。彼らは研究をまとめるにあたって、人々が自分が聴く音楽についてどのような予想を立てるか、予想が当たったかどうかに応じて脳がどのように反応するかを説明した(脳は、普段とは違う予想外に聞こえる音楽と、予測可能なコード進行の曲では異なる反応を示す)。研究者らは曲のメロディー、ハーモニー、およびリズムに注目した。

私が4月にこの研究を紹介したとき、著者のピーター・ブーストらが、自分たちの研究は少々限定的であるということを、すでに強く意識していたことに言及した。それは、音楽と脳に関してなされてきた研究の多くがクラシック、ジャズ、フォークソング、ポップミュージックといった西洋音楽スタイルの事例を用いてきたからだった。

このことについて、新たな意見が出てきた。先週、日本の慶応義塾大学のサベジ・パトリックと藤井進也の2人が、先の研究に対する書簡をNature Reviews Neuroscience(上記の論文が発表されたのと同じ雑誌)で発表し、論文の考えを世界のさまざまな地域の音楽にもっとよく当てはまるように工夫する方法を提案した。

彼らの挙げた主要な提案の1つは、ハーモニーの予測可能性を排除することだった。ハーモニーは西洋音楽に極めて強く結びついた概念であり、それ以外の音楽には必ずしも同じように機能しない。彼らが例に挙げたのは、南アジアのドローン(コード進行をともなわない持続低音)と中央アフリカのホケット(1つの旋律線を形成するそれぞれの音を複数の声部が交替で発する技法)だ。サベジと藤井はリズムの概念を拡張し、もっと多くの種類のリズムを含めることも提案している。

この書簡に応えて、論文の著者であるブーストらは、ただちに返答を発表した。彼らは音楽研究にもっと多様性が必要であることには同意したが、その解決法は少々異なっていた。まず、彼らのモデルは音楽そのものをあまり考慮に入れておらず、音楽を聞き手がどのように知覚しているかに注目していることを指摘した。結局、音楽の断片がどれほど予測可能であるかは、聞き手個人の体験に依存している。

そこで、脳が音楽にどう反応するかのモデルをより包括的にするためには、西洋音楽だけでなくより多様な音楽要素を考慮に入れるだけでなく、異なる文化的背景をもつ多くの人々がこの種の調査研究に参加することが重要であると著者らは指摘した。

著者らは「異文化にわたる音楽の神経科学という興味深い分野で、実験に基づく神経科学調査研究の結果を見届け、評価できることをとても楽しみにしています」と述べている。

音楽知覚に関する神経科学研究が非西洋文化を含めるようになりつつある兆候はすでに見られる。今年6月に私は、西洋音楽を聴いている人たちと聴いていない人たちの間で、音楽知覚がどのように異なるかに関する研究を紹介した。このような多様性のある研究が、すでに浸透している知識体系に追いつくまでには時間がかかるかもしれないが(遺伝子研究も同様)、いずれ人間の脳がどのように音楽を知覚するかに関する研究者の理解は、より詳細であらゆる人に適用できるものになるだろう。

forbes.com 原文

翻訳=高橋信夫

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