免除の対象となるのは、年収12万5000ドル未満の債務者、および、既婚者で収入を合算申告している場合は25万ドル未満の債務者だ。一方、パンデミック下で長く続いていた猶予期間が終わり、学生ローンの返済が2023年1月から再開される。
インフレへの影響
この決定は、現在年率8.5%となっている米国のインフレにどんな影響を与えるだろうか。7月に入って、前月比のインフレ率は落ち着きを見せたが、学生ローン返済免除はインフレ率を再び上昇させるのだろうか。
経済学者の視点
ハーバード大学の経済学者ローレンス・サマーズは、発表と同じ週にTwitter上で、学生ローンの返済免除はインフレ率を上昇させると述べた。「学生ローン返済免除は需要を喚起し、インフレ率を上昇させる種類の歳出だ」
論理的に考えればその通りだが、この政策のインフレへの影響がどれほど大きなものになるのかという疑問は残る。
学生ローン返済免除と、新型コロナ対策給付金の比較
米国政府は、2020年4月から2021年3月まで3度にわたり、新型コロナウイルス対策給付金小切手(Economic Impact Payment)を発行してきた。対象となったのは、今回の学生ローン返済免除対象者と同様の所得水準にある世帯で、金額は1回につき3000ドル以上だった。学生ローン返済免除のほうが金額が大きいため、影響も大きそうに思える。
しかし、債務帳消しの影響は、即座に現れるものではない。免除対象者は、給付金小切手の時とは違って、1度にまとめて1万ドルを受け取るわけではない。
個人資産会社ナードウォレットによれば、平均的な学生ローンの利率は約5%だ。確かに、学生ローン負債が1万ドル帳消しになれば、その人の資産は1万ドル分増える。だからといって、そのお金を握りしめて外出し、景気よく散財するとはいかない。現金としてもらったわけではなく、長期間にわたる支払いの一部が消滅しただけだからだ。