テクノロジー

2022.09.06 09:30

同じ番組でも広告が違う デジタル駆使で進化するプロダクトプレイスメント


主人公の飲むものが異なるドラマ


例えばサッカーの試合などでは、試合場と観客席を区切っている塀がたくさんのスポンサー会社のロゴで埋められているが、それを観ている人の国や地域によって映し出されているものが変わるというテクノロジーが採用されている。

これを進化させて、「アマゾン」と「ピーコック」(NBCテレビ系列のビデオ配信サービス)は、独自のオリジナルコンテンツをつくったときにドラマの登場人物の背景に様々なデジタル広告の仕掛けを忍ばせて、視聴者の好みに応じて適した広告を挟むというデジタルプレイスメントの実験段階に入ったとニュースサイト「モーニング・ブルー」が伝えている。

つまり、主人公がラップトップを開くと、ラップトップのそのロゴが、視聴者の嗜好性によって「アップル」になっていたり、「レノボ」になっていたりする。あとづけで広告を挿しこんでいるのだ。

あるいは、劇中の主人公が街を歩いていると、街の看板が「トヨタ」を映しているかと思えば、人によっては「日産」であったりするのだ。

また、一般にコカコーラは保守系の人に、ペプシはリベラルな人に支持されると言われているので、視聴者がネット検索の履歴から保守系だと思われていたらその視聴者の観るドラマでは主人公はコカコーラを飲み、リベラルな視聴者のモニターでは同じドラマの主人公がペプシを飲んでいるということが起こるという仕組みだ。

繰り返すように、プロダクトプレースメントはあくまで侵入度がソフトで低くなければならない。視聴者にプロダクトプレースメントだと気づかれるとドラマそのものに水を差すという逆効果になるので、このあたりのハンドリングはとても難しい。

言い換えれば、アナログな手段では、ストリーミング配信のように人々の好み、視聴の対象が多岐にわたるところで、このバランスを取ることは不可能と言って間違いがない。

まさに膨大なデータを分析したうえで、アルゴリズムが引っ張ってくる広告を、アルゴリズム上のバランス感覚で見せるという、デジタルのトータルパッケージで初めて実現するビジネスモデルと言える。そして当然、その広告は瞬時にオークションがかかる方式になり、多くの広告料を入札した化粧品が、主人公の洗面台を飾ることになる。

前出のモーニング・ブルーによれば、詳細は不明なものの、前述のようにアマゾンではこの試みがすでに始まっていて、アクションドラマの「ジャック・ライアン」や刑事ものの「BOSCH/ボッシュ」などのオリジナルコンテンツにテスト導入されたらしい。最新シリーズが出てきたとき、自分の観た映像と友人のものを比べてみると面白いかもしれない。

主人公のジャック・ライアンが、あなたのモニターでは「バドワイザー」を、友人のそれでは「ハイネケン」をと飲み分けているかもしれない。

連載:ラスベガス発 U.S.A.スプリット通信
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文=長野慶太

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