これは「個の時代のリーダーシップ」の大きな落とし穴の一つである。個の時代は、急激で変化の激しい時代の中で、且つての正解が通用しない、集団の意見がすべて正しいわけではないという事実が作り出した新しい時代の空気である。意見は多様であり、一人一人が言うことが一意見として尊重されるべきであり、同調性の圧力が少しずつ薄くなっていくことでもある。
リーダーは集団の調和も大事にしつつも、一人ひとりの個性が輝き、才能が最大限発揮される状態を作っていく必要がある。
そんな中で、リーダーは異なる意見が飛び交う議論をどうリードし、意思決定をしていくのかが大きなチャレンジになる。誰かの意見を聞けば、誰かの意見を聞かないことにもなるし、自分の意見もあるし、そうして生まれるのが「意思なき決定」であり、みんなが薄く納得する「妥協の産物」である。
この集団による「意思なき決定」から、個人が輝く「意志ある決定」に変換していくために、組織やリーダーは意思決定のあり方、会議体の目的を再定義していく必要がある。意思決定は全員で行うのではなく、その事案に関して「最も強い意志を持ったものが行う」必要がある。
それはリーダー自身であるかもしれないし、もしかしたらリーダーを凌駕する意思を持ったメンバーかもしれない。その時、リーダーは最終責任は組織が決めた権限者が持つが、その事案に関する意思決定をメンバーにゆだねることも必要かもしれない。これは元来の組織上の次世代リーダーに対する権限移譲とは違い、「意志」をベースにした権限移譲やタスクのアロケーションである。
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会議体のあり方も、みんなの意見をリーダーが聞きまとめて結論をだすのではなく、意志あるものがより意思を強固なものにするためにみんなの意見をもらう場でもある。どんな結論にもメリットもあればデメリットもある。それを比べて打算的に結論を出したところで、正しい結論かどうかは、もはやわからない。
そこで大事なのはメリットもデメリットも他の意見もきちんと理解した上で、自分の意見を固めていくこと、そしてそれは意思を醸成していくプロセスでもある。
結論は、みんなの意見の集合知である必要はない。誰か一人の強い意志であるべきであり、どんな反対があろうともやり遂げたいという思いである。