ミサイル1千発には、どの程度の意味があるのか。日本の防衛力はどこまで強化できるのか。まず、陸上自衛隊は現在、5つの地対艦ミサイル連隊を持つ。5つの連隊には、すべて合わせると21個の中隊がぶら下がっている。1個中隊は原則、6発の発車筒(キャニスター)を備えたミサイル発射システムを4基保有している。単純に計算すると、全部合わせて500発あまり、保有していることになる。当然、予備のミサイルもあるはずだから、それ以上という計算もできるが、現実はそんなに甘くない。過去、複数の関係者から「12式(12SSM)にしろ、ペトリ(パトリオット地対空誘導弾)にしろ、キャニスター全部に入っているとは限らない」という本気とも冗談ともつかない話を聞いたこともある。
では、何を狙うのか。1千キロという射程や対地攻撃にも使えるミサイルということを考えれば、自民党などが提言している「反撃能力(敵基地攻撃能力)」のための装備と言える。日本は専守防衛ということもあり、「敵が攻撃してきたとき、その発射地点(発射台など)を破壊する」と考えている人も多いだろう。
本当にそんなことができるのか。この質問を投げかけた防衛省関係者は、逆に「スカッド・ハントという言葉を知っていますか」と問いかけてきた。湾岸戦争当時、米軍はイラクの弾道ミサイル発射を阻止するため、イラク上空を監視し、移動発射台(TEL)の破壊を試みたが、ほぼ失敗に終わった。この関係者は「イラク軍の弾道ミサイルの98%が破壊をまぬかれたという分析もあります。自衛隊が1千発のミサイルを保有しても、TELの破壊はほとんど不可能でしょう」とも指摘する。
では何を狙うのか。この関係者は「日本が武力攻撃を受けた場合、敵が本格的な攻撃に移る時間を稼ぐという意味はあるでしょう」と語る。敵のレーダーサイトや滑走路、港湾施設を破壊すれば、航空機や艦船による来襲を遅らせることができるという意味だ。日米安保条約は自動参戦条項がないため、米国大統領は日本の要請を受けた後、議会の承認を得て派兵を決定する。米軍の本格的な来援まで時間を稼ぐ、という意味合いが強いのかもしれない。戦闘行動に入り、艦内の隔壁をすべて閉めた状態の艦船の場合、ミサイルを10発命中させても撃沈できないと言われている。