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ヌーメノールをめぐる物語は“現代への警告”
栄華を極めた国・ヌーメノールが誕生した背景には、神話の世界における第一紀において、ある人間たちに神が特権を与え、通常の人間にはない特別な能力や(数百年を生きるエルフ族ほどではないが)長い寿命を得たからだ。
作品の中で、通常の人間と特別な人間であるヌーメノール人は、明確に分けて描写されている。ヌーメノール人は背が高く(男性は2.4メートルもの長身に達する)高い知性をもち、身体能力もはるかに高い上に長寿命。
一方で、その性質は人間そのもの。短寿命の人間が短い期間で多くを成し遂げようとする“欲”を、ヌーメノール人も同じようにもっている。“超人類”+人間の欲が組み合わさることで、ヌーメノールは究極の文明を築いてきたのだ。
小説の中ならずとも、人間はパワーを自分自身に感じると、全能感や選民意識を知らず知らずのうちにもつようになるものだ。奢りが芽生えた心の隙に欲望が入り込むと、トラブルへと繋がっていく。
本作でも閉鎖された島国で繁栄を誇っていたヌーメノール人が、エルフ族と交わる中で世界における自分たちの立ち位置を知り、普通の人間に対する優越感とエルフ族よりも短く儚い自らの運命の間に悩んでいく。その心の隙が、全ての災いへと繋がっていくのだ。ヌーメノールの本作における運命は社会全体が両極に割れていく“分断”であり、同じく両極へと偏りがちな現代の写し鏡でもある。
ムンバイのプレミアでインタビューしたJ.D.ペインは、ヌーメノールをめぐる物語について次のように話した。「ヌーメノールは、人間が構築した究極の文明です。物語は裂け谷に建設されたエルフの王国での小さな分裂から始まります。王に集う忠誠心の高いエルフたちが結束を高める一方、伝統に囚われないエルフが自らの疑問を解決するため旅立ち、その先に新しい発見をすることで世界は動き始めます」
その先に待ち構えているのは、ヌーメノール社会の分断と没落だとJ.D.ペインは話す。「それぞれが信念に従って忠実に行動しますが、それでも最終的に世界は二つの大きな勢力へと別れていき、互いの考えを共有できなくなる。勢力間の対話は失われ、相互に迫害し始めると戦争への道は回避できません。このストーリーは現代を生きる私たち全員に対する警告だと思います。ヌーメノールは人類が成し得た偉業で、強固な社会を作り出していました。しかしどんなに素晴らしい王国を築いても、ほんの少しの猜疑心や派閥争いで社会のバランスが崩れ、話し合いの機会を失うことで崩れ去るのです」